研究領域 | 身体-脳の機能不全を克服する潜在的適応力のシステム論的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H05726
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
高草木 薫 旭川医科大学, 医学部, 教授 (10206732)
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研究分担者 |
花川 隆 京都大学, 医学研究科, 教授 (30359830)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | ドーパミン作動系 / アセチルコリン作動系 / 神経伝達物質 / 前頭-頭頂ネットワーク / 脳活動ダイナミクス / 加齢 / 脳変性疾患 / 遂行機能 |
研究実績の概要 |
本研究では,アセチルコリン(ACh)やドーパミン(DA)などの神経伝達物質の動態変化に伴う脳活動ダイナミクスの変容メカニズムが,ヒトや動物の超適応における適応則の変容に及ぼす影響を解明する.第3次年度の成果は次の3点である. 1.脳幹ACh系による脳幹-脊髄姿勢制御下行路系の調節;研究代表者(高草木)らは,ネコ脳幹のACh系が脳幹から脊髄に下行する姿勢制御系(網様体脊髄路と前庭脊髄路)の活動をどのように修飾するのかを解析した.除脳ネコにおいて,脳幹ACh系の起始核である脚橋被蓋核(PPN)からは,単約50%の網様体脊髄路ニューロン(RSTN)と30%の前庭脊髄路ニューロン(VSTN)に興奮性投射が存在することを見出した.RSTNは筋緊張の調節に,VSTNは身体の伸展に関与する.従って,本研究の成績は,パーキンソン病(PD)における特異的な姿勢の異常(筋緊張異常と屈曲姿勢)には,両下行路系の障害が関与することを示唆する. 2.脳活動・結合ダイナミクスの解析;研究分担者(花川)らは,高齢者におけるfMRIの独立成分解析(ICA)により,デフォルトモードネットワーク,背側注意ネットワーク,サリエンスネットワークおよび中枢実行ネットワークから時系列データを抽出し,fMRI信号のネットワーク間の相関(FC)時系列を4つのクラスター状態に分類した.その結果,① 健常高齢者とPDにおいては各ネットワーク間の結合状態には大きな変化を認めなかったが,② レビー小体型認知症(DLB)とアルツハイマー型認知症(AD)では,各ネットワーク間に疎の結合状態が顕著であった. 3.DAイメージング法の開発;さらに花川らは死後脳における高解像度MRI撮像技術の開発に取り組んでおり,生体MRIにおける黒質のDA信号の情報と免疫染色等の組織学的情報との関連性について解析を進める.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動物実験(旭川医科大学)においては,以下の3項目において研究の進捗が見られた.第一点は,先行性姿勢制御と随意運動のマルチタスク遂行モデル動物の確立に成功したことである.特に,先行性姿勢制御の評価系,ならびに,その最適化パラメータを同定する手法を確立したことである.第二点は,先行性姿勢制御における前頭葉ならびに頭頂葉の機能分化に関する知見である.前頭葉一次運動野と頭頂葉の一次感覚野,そして,頭頂葉外側部は姿勢制御よりもむしろ前肢の随意運動に寄与する一方,頭頂葉内側部は先行性姿勢制御に重要な役割を持つことが明らかとなった.第三点は,脳幹-脊髄の姿勢制御系(網様体脊髄路と前庭脊髄路)に対するACh系の役割を同定できたことである.これらの成績は,今後の研究展開に極めて有用な知見である. ヒトの臨床研究(京都大学)についても,当初の計画通り,以下の3項目において研究の進捗が見られた.第一点は,脳波とfMRIの同時解析を用いて脳内の各領域間ネットワークのダイナミクスの変化をより短い時間分解能で解析・評価できる脳活動・結合ダイナミクス計測法を開発したこと,第二点は,健常高齢者とPD(DA系の障害)では各領域間のネットワークダイナミクスに顕著な変化が認められないが,DLBやADなど大脳皮質に投射するACh系の障害が想定される疾患では疎のネットワーク結合状態が目立つことを示した.即ち,加齢に伴って障害を受ける神経伝達物質の種類によって脳神経回路ダイナミクスの変化は異なる可能性がある.第三点は, 死後脳MRIと脳標本の組織学的検討を、同一検体を対象として同時に実施できる研究環境を構築したことによって,黒質DAニューロンや黒質-線条体DA系の活動と脳神経回路ダイナミクスとの関係を解析できる可能性が出てきたことである.
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今後の研究の推進方策 |
動物実験(高草木・旭川医大)ではDA系とACh系の損傷に伴って変化する行動遂行則の変容過程を,ネコの姿勢制御-前肢リーチングのマルチタスク課題を用いて評価する.これまでの研究によって,① 先行性姿勢制御は前頭-頭頂ネットワークの活動による高次脳機能で実現されること,② 先行性姿勢制御における姿勢移動の速度が随意運動の姿勢-運動パターンを決定づける時空間パラメータであること,等を明らかにした.そこで,本年度は,DREADD法と光遺伝学的手法・神経薬理学手法を組み合わせ,大脳皮質に作用するコリン作動性投射の活動を修飾した際の先行性姿勢制御と指向性動作(前肢リーチング)の統合様式を解明すると共に,先行性姿勢制御を実現する大脳皮質-脳幹-脊髄投射系の機能構築の同定を試みる.なお,旭川医大における「新型コロナ感染症状況下における動物実験体制の変更・見直し」が必要な場合,臨機応変に研究計画の変更を行う. ヒトの臨床研究(花川・京都大学)では,昨年度,開発に成功したDAT標準化指標とDA機能を反映するMRI解析(ニューロメラニンMRI)に基づいて,年齢依存的なDA減少の個人差を評価する.また,安静時MRIの動的機能結合解析を用いて,各人の脳神経回路ダ イナミクスを抽出し,これとDA系や認知機能との関係を評価することにより,DA系と認知機能を媒介する脳神経回路ダイナミクスの同定を試みる.加えて,同意の得られたコホート参加者における脳波と機能的MRIの同時計測を行い,脳神経回路ダイナミクスの周波数分析, 時-空間解像度,機能局在同定能を向上させるための技術開発を推進する.また,ヒト死後脳や齧歯類の ex vivo MRIと顕微鏡解析を組合せ,DA系の機能を反映するMRI解析(ニューロメラニンMRI)と中脳DA細胞数やDA投射線維などの量的関係についての検討を進める.
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