研究領域 | 身体-脳の機能不全を克服する潜在的適応力のシステム論的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H05730
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
太田 順 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50233127)
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研究分担者 |
四津 有人 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30647368)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | システム工学 / 数理モデル化 / 適応 |
研究実績の概要 |
- 神経系姿勢制御モデルへの前庭脊髄路を模した制御の導入 A04計画班の高草木,B01計画班の千葉(旭川医科大学)らと共同で,姿勢制御における神経伝達物質の役割を考慮した数理モデル構築を行っている.ヒトの姿勢制御において重要な役割を果たす下行路である前庭脊髄路を模した制御を,計算機モデルに導入することを目指した.前庭脊髄路は,全身の筋緊張を調節する網様体脊髄路と共に,姿勢制御を司る.これまで開発してきた神経系姿勢制御モデルに,以下の知見を基に前庭脊髄路を模した制御を導入した:1) 脊髄全体に投射し,身体全体の筋活動を調整する;2) 身体を垂直位置に保つことで,頭部を安定した垂直位置に維持する;3) 入力として,脳幹内の前庭神経核において主に前庭感覚を受け取る;4) 出力として,伸筋には興奮性,屈筋には抑制性の効果を持つ.この神経系姿勢制御モデルを用いて,19の関節自由度と94の筋を持つ筋骨格モデルを制御するシミュレーションを行い,神経系姿勢制御モデルの妥当性を検証した. - マルチタスク下の姿勢制御における神経伝達物質の役割の検証 a)姿勢課題と認知課題を用いたマルチタスクの設計.姿勢課題は30秒間の静止立位を採用した.認知課題は,Granacherらの先行研究を参考に与えられた数字から7を引き続ける計算課題を採用した.b)設計したマルチタスク中の運動学・生理学的反応を計測するシステム構築.計測する運動学的データとして,身体各部位の位置データおよびcenter of pressureの軌跡を計測する.生理学的データとして各筋の表面筋電図を計測した.c)構築したシステムを用いたパーキンソン病患者計測.静止立位のみ→静止立位+計算課題→静止立位のみの3トライアルで計測し,マルチタスクの影響を検証した.パーキンソン病患者2名を対象とした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初設定した,以下の3つの目標を達成できているため.1) 神経伝達物質の姿勢制御における役割の検証.パーキンソン病などの神経変性疾患患者では,マルチタスクの遂行に必要な機能が障害され,その背景には神経細胞の変性や神経伝達物質の異常が存在すると考えられている.そこでパーキンソン病で変化する神経伝達物質に着目し,マルチタスクの遂行における神経伝達物質の役割を検証する.2) 姿勢制御における神経伝達物質の役割を考慮したマルチタスク表現モデルの開発.神経伝達物質というミクロな情報と,その情報処理後の結果として現れる行動-生理反応というマクロな情報の統合を目指す.「マルチタスクの数理モデル」を開発する.3) 構築した数理モデルの検証.生体より得られたデータを用いて構築した「マルチタスクの数理モデル」の検証を行う.
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今後の研究の推進方策 |
神経系姿勢制御モデルへの前庭脊髄路を模した制御の導入については,本年度構築した神経系姿勢制御モデルを用いて,パーキンソン病等,下行路の働きの亢進・低下が見られる疾患の計算機上での表現を目指す.またヒトの実験の結果と合わせて,神経伝達物質,姿勢制御メカニズム,そしてあらわれる挙動の関係を記述することを目指す. マルチタスク下の姿勢制御における神経伝達物質の役割の検証に関しては,今回得られた実験結果を踏まえて,マルチタスクの与え方の再検討,実験環境の統制の仕方の検討等を行う予定である.
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