研究領域 | 出ユーラシアの統合的人類史学:文明創出メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
19H05737
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
瀬口 典子 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (10642093)
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研究分担者 |
松永 昌宏 愛知医科大学, 医学部, 講師 (00533960)
石井 敬子 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (10344532)
勝村 啓史 北里大学, 医学部, 准教授 (10649544)
水野 文月 東邦大学, 医学部, 助教 (50735496)
五十嵐 由里子 日本大学, 松戸歯学部, 講師 (60277473)
山本 太郎 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (70304970)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 適応進化 / 遺伝的多様性 / 適応候補遺伝子 / 感染症 / 拡散の歴史 / 健康の歴史 / 人口動態 / 文化的適応と身体変化 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトの研究目的は、集団のフロンティアへの拡散と移動、「文明」形成に伴う遺伝的多様性と身体形質の変化とその適応過程、そして自然環境、文化環境への適応について、その変遷を時間軸に沿って解明することである。そのために(A)形質人類学チーム、遺伝子チーム、人間生物学チームによる統合研究と、(B)モデル動物研究、心理学、遺伝学の融合研究を進めている。 2019年度は、形質人類学チームは、縄文時代、弥生時代の人口構造・人口動態を明らかにするため、縄文時代集団と弥生時代集団の腸骨形態からの出生率と寿命の復元を行った。また、南北アメリカ大陸の頭蓋骨形態の多様性からの共通祖先検証と新大陸への拡散の歴史を考察し、体肢骨形態の多様性と気候への適応を検証した。遺伝子チームは、ミトコンドリアDNAと全塩基配列を用いた日本人集団の有効集団サイズを検証した。また、ミトコンドリアDNAを用いて列島日本人集団とアメリカ大陸人類集団の人口動態を分析し、出ユーラシアを果たしたこの二つの集団の人口動態の違いを明らかにし、その違いを引き起こした要因について探求している。人間生物学チームは、出ユーラシア前にチベット高原で人が獲得してきた高地適応の状態とその破綻が健康に及ぼす影響を調査し、自然環境および文化環境に適応する人類の多様性を模索している。 人類集団モデル動物(メダカ)を用いたゲノム研究では,好奇心(新奇性追求)遺伝子多型の検出とその進化的解析を行い、メダカの遺伝子多型の関連性の検証を実施している。また、心理学と遺伝学の融合アプローチにより、新天地への拡散と移動を可能にした人類の心理・行動に関係する適応候補遺伝子の推定および解析を目指し、日本人行動特性と日本人ハプログループD遺伝子との関連研究が心理学と遺伝学の融合で進められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
形質人類学チームは、日本列島の先史時代における人口構造(年齢構成と出生率)を,古人骨を用いて推定した。今後の集団の拡散・移住の歴史と身体的変化分析のために古人骨3次元データ収集を行うため、購入した3次元スキャナー、3次元メッシュデータ作成プログラムのトレーニングを受け、3次元古人骨データの収集を始めた。遺伝子チームは出ユーラシアを果たした現代型ホモ・サピエンスがそれぞれの最終到達地域でどのような適応進化を遂げてきたのかを探るにあたって、出ユーラシアを果たした集団として「列島日本人集団とアメリカ大陸人類集団」の人口動態、そしてユーラシアに留まったレファレンス集団として「中国大陸・漢民族集団」の人口動態を比較分析した。その差異から両集団のそれぞれの遺伝的特性の存在が期待される。 人間生物学チームはフィールド調査と医療人類学的研究を担当し、チベット高原にて、ヒトと環境の相互関係が病気の発症に与える影響の調査を実施し、多血症の発症に性差、低酸素適応に潜むトレードオフ:糖尿病の発症促進、低酸素適応に潜む第二のトレードオフ:関節炎の状況を確認した。 モデル動物ゲノムチームはメダカの行動実験の結果を用いたゲノムワイド関連解析を実施し、好奇心の強さと関連するゲノム領域の同定を目指し、トランスクリプトーム解析を実施した。心理学・遺伝子チームは遺伝子多型の網羅的な検討、ヒトを対象とした実験室研究 (リスク下における意思決定)という多面的な方法を用い、出ユーラシア関連の心理・行動に関係する適応候補遺伝子の推定および解析を実施、新奇性追求に代表される「冒険心」にかかわる遺伝子探索を進めた。 全メンバーは、新学術領域・出ユーラシア主催の国内全体会議での発表、学会発表、原著論文の出版、アウトリーチ活動を活発に行った。また、新学術・出ユーラシア主催のメキシコでの国際会議にも出席発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
形質人類学チームは国内、海外での調査を実施する予定であり、人間生物学チームも海外調査を予定しているが、COVID-19感染拡大のため、一連の国内、海外調査が可能になるかどうか、はなはだ不透明な状況にあるため代価案も提示する。 形質人類学チームは今後も、研究施設に保管してある古人骨の調査を行い、地域集団の人口構造の復元を行う。次に人為的な頭蓋骨変形の3次元データを収集し、変形した頭蓋形態の独特なパターンを分析し、その文化的意義を検証する。また、集団の健康状態の経時的変化の復元のためのデータを収集し、生物考古学的分析を始める。COVID-19感染拡大のために国内外の調査が困難な場合は、これまで収集したデータ分析、文献資料調査を拡充する方向で対応する。 遺伝子チームは、出ユーラシア後の人口動態が「日本列島に進出した出ユーラシア集団」と「アメリカ大陸に進出した出ユーラシア集団」で異なることを、現代人集団の母系遺伝情報であるミトコンドリアゲノムを用いて明らかにしてきたが、本年度はそれぞれの地域から出土した古人骨を用い、父系・母系の両者からの遺伝情報である核ゲノム情報を用いた解析を実施する。 人間生物学チームは、ネパール、ペルーにおいて、高地適応とその破綻、破綻がもたらす疾病の関係について研究予定であるが、COVID-19感染拡大のために海外出張ができなかった場合は、その時間を遺伝子データの解析、メタゲノム解析に当てる。 心理学・遺伝子チームは文献調査や実験室実験を通じて出ユーラシア関連の心理・行動を特定し、それに関係する適応候補遺伝子の推定および解析を実施する。モデル動物ゲノムチームは新奇性追求行動実験装置を再導入し、その再現性の確認を行い、すでに候補として検出した15遺伝子について遺伝子破壊メダカ変異体を作成するとともに、新規QTL解析を実施するためのF2個体群の作成を行う。
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