研究領域 | 多様かつ堅牢な細胞形質を支える非ゲノム情報複製機構 |
研究課題/領域番号 |
19H05740
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中西 真 東京大学, 医科学研究所, 教授 (40217774)
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研究分担者 |
鵜木 元香 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (30525374)
藤 泰子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (10623978)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / ゲノム安定性 / DNA損傷 |
研究実績の概要 |
中西は、DNA複製部位へのDNMT1分子の集積にヒストンH3以外にPAF15を利用することを明らかにした。すなわち、ヘミメチル化DNAに結合したUHRF1はヒストンH3およびPAF15をdual monoubiquitin化し、これを分子マーカーとしてDNMT1が結合してヘミメチル化をフルメチル化に変換することを明らかにした。興味深いことに、PAF15のユビキチン化部位周辺の構造はヒストンH3のアミノ末端領域と相同性が高く、これらのdual monoubiquitin構造は類似であると考えられた。またヒストンH3とPAF15の使い分けについては、DNA複製早期においてはPAF15をDNA複製後期においてはヒストンH3を優先的に使用していることが、PAF15変異体を発現するES細胞を用いた解析から明らかとなった。本研究成果はNature Communications誌に掲載された。藤は、遺伝子内DNAメチル化がもつ生物学的意義を明らかにするため、具体的にはDNA複製阻害時に誘発されるDNA傷害に遺伝子内メチル化の有無が与えるゲノム領域の同定を目的に、シロイヌナズナ組換え近交系の確立とDNA傷害誘発薬剤に対するスクリーニング評価を行い、薬剤高感受性および非感受性系統の同定をおこなった。鵜木は、ICF症候群は、ペリセントロメア反復配列のDNA低メチル化が特徴的な遺伝性の免疫不全病である。本症候群の原因遺伝子の1つであるZBTB24が、ヘテロクロマチンに局在するために必要なドメイン/モチーフと、転写因子として働くために必要なドメイン/モチーフを同定した。本成果はGenes to Cells誌にて発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中西は、DNAメチル化複製の鍵としてDNMT1分子のDNA複製部位への集積制御が重要な役割を果たしていることを見出している。この内、PAF15とヒストンH3の使い分けについては野生型PAF15分子を2ヶ所のユビキチン化部位変異体に入れ替えたES細胞を用いてゲノムワイドなDNAメチル化解析を行なった。その結果、PAF15変異体を発現する細胞においてはDNA複製早期の領域においてDNAメチル化の程度が有意に減弱していることが示された。藤は、譲渡された組換え近交系種子の保存状態が悪く各系統について改めて種子を採取する作業が増えたため、4ヶ月程度の遅延を余儀なくされたが、その後の薬剤スクリーニングについては問題なく行われた。鵜木は、ICF症候群の原因遺伝子CDCA7が欠損した細胞株を利用して、CDCA7非存在下で新規DNA合成鎖上に集積できなくなる蛋白質を網羅的に同定する事に成功し、CDCA7の機能解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
中西は、DNAメチル化複製に関わるヘミメチル化DNA結合タンパク質UHRF1が岡崎フラグメントの結合を触媒するLIG1の集積に関与しているという予備的結果を得たため、DNAメチル化が上位でDNA複製を制御していると考えている。これを証明するため、DNA複製過程における岡崎フラグメント連結をアフリカツメガエル卵細胞抽出液中で再現可能であるか、またその分子機構はどうなっているのかについて詳細に解析する予定である。また、DNAメチル化複製にUHRF1結合タンパク質PGC7/Stellaがどのように機能しているのかについて、アフリカツメガエル卵細胞抽出液を用いた再構成系で解析を進めていく。藤は、遺伝子内DNAメチル化がもつ生物学的意義を明らかにするため、遺伝子内メチル化の有無がDNA複製阻害時のDNA傷害に与えるゲノム領域の同定を進めるとともに、遺伝子内DNAメチル化の確立過程を調べるためにDNAメチル化変異体の交配系を用いてDNAメチル化確立過程について調べる。鵜木は、CDCA7非存在下で新規DNA合成鎖上に集積できなくなる蛋白質の機能解析を通して、なぜICF症候群ではペリセントロメア反復配列の低メチル化が起き、当該領域が不安定化して、異なる染色体同士が融合した分枝染色体が生成されるのか、多角的に検討し、解明する。
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