研究領域 | 多様かつ堅牢な細胞形質を支える非ゲノム情報複製機構 |
研究課題/領域番号 |
19H05742
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村上 洋太 北海道大学, 理学研究院, 教授 (20260622)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | ヘテロクロマチン / 分裂酵母 / Epe1 / eraser |
研究実績の概要 |
本研究では優れたモデル生物である分裂酵母を用いてヒストンH3 Lys9 (H3K9me) で規定されるヘテロクロマチンの複製、維持、制御機構の解明をめざす。我々はH3K9meの脱メチル化ドメインJmjCドメインをもつEpe1は、異所的なH3K9meを除去するEraserとして機能する一方で、(1)ユークロマチンに散在する潜在的ヘテロクロマチン形成部位でのヘテロクロマチン形成をJmjCドメイン非依存的に抑制する(2)恒常的ヘテロクロマチンでRNAi機構をG2期に活性化し複製により減少したH3K9meを補填すること明らかにした。これらの知見はEpe1が抑制的クロマチン構造複製・変動制御のマスターレギュレーターであることを示している。本年度は以下の点を明らかにした。 1) Epe1がRNAi機構を活性化する際、恒常的ヘテロクロマチン領域に散在する潜在的なプロモーターからの転写を活性化することを明らかにした。恒常的ヘテロクロマチンが作られるDNA領域の何をRNAi が認識するのかは謎であったが、「散在するプロモーターからの転写」が効率良いRNAi依存ヘテロクロマチン形成のシグナルになっている可能性が示唆された。 2) Epe1がリン酸化を受ける事を明らかにした。このリン酸化は低温で増大する、細胞周期で変化することが明らかになり、リン酸化を介したEpe1の活性制御によりヘテロクロマチンが制御されている可能性がある。また、JmjCドメイン下流のC末領域の20アミノ酸領域がリン酸化部位ではないもののリン酸化に必要な領域であることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Epe1によるRNAi活性化メカニズムについて、散在するプロモーターの活性化というあらたな視点を加えることができた。 また、Epe1がヘテロクロマチンのマスター制御因子であるならその活性制御機構を知る必要があるが、リン酸化による制御という可能性を見いだしたのは今後の分子機構理解に一定の方向性をあたえるモノである。
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今後の研究の推進方策 |
1) 「散在するプロモーターの活性化」の意義の検証:前年度の解析で散在するプロモーターがRNAi依存ヘテロクロマチン形成のシグナルになる可能性がでてきたためにこの検証をおこなう。人為的にプロモーターをならべた配列を分裂酵母ゲノムに挿入し、それがRNAi依存ヘテロクロマチン形成の標的となるかどうか解析を進める。 2) リン酸化によるEpe1の機能制御:リン酸化部位の決定をおこなう。タグを付加したEpe1発言株を作製し、タグを用いたEpe1精製をおこない、質量分析によりリン酸化されるアミノ酸を決定する。Epe1は分解を受けやすく、かなりのタンパク質が不溶性画分に存在するため、変性条件化で細胞破砕をおこなうことで、分解を防ぐとともに可溶化を試みる。リン酸化されるアミノ酸が決定できればリン酸化できないアミノ酸置換およびリン酸化類似のアミノ酸置換を導入した株を作製し、Epe1機能への影響を検討する。 3) 哺乳類でのEpe1ホモログの探索:ほ乳類細胞、たとえばマウスでは23種のJmjCタンパク質が存在する。この中にEpe1と同様にヘテロクロマチン制御に重要な働きをする因子がないか探索をおこなう。CRISPR-Cas9を用いてすべてのJmjCタンパク質のKO株を作製し、ヘテロクロマチンへの影響を検討する。
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