研究実績の概要 |
本研究では体細胞分裂から減数分裂への切替えに働く新規の因子を同定した。MEIOSINと名付けたタンパク質はIDだけを付されたゲノムに眠る未解析遺伝子Gm4969にコードされていたが、HMG-likeドメインをもつDNA結合因子と推測された。MEIOSINを欠損させると精巣・卵巣の萎縮を伴って不妊となる。ChIP-seq解析の結果、MEIOSINは減数分裂関連遺伝子のプロモーター近傍に結合することが判明し、MEIOSINは減数分裂関連遺伝子を活性化する転写因子として働いていることが示唆された(Dev Cell 2020)。このMEIOSINの制御下に置かれている遺伝子群の中には、減数分裂を特徴付ける遺伝子が含まれることが、直接制御される標的遺伝子には多くの未解析のhypothetical geneが含まれることが判明している。 これらの未解析の遺伝子には、減数第一分裂に必要とされる未開拓の因子や体細胞型の細胞周期を積極的に抑制するものが含まれる可能性がある。まず、これらhypothetical geneについて、発現パターンの組織特異性を検討して精巣と卵巣に発現が限定される遺伝子を絞り込み、それらについて受精卵へのCRISPR-Cas9導入による遺伝子破壊を行い、8週齢F0個体の精巣が委縮を示すか否かを指標に表現型を解析した。なお効率良くスクリーニングを進める必要があるため、alleleの塩基配列の確認の手間を省くことができるように標的遺伝子座を大きく欠失させるssODN法を用いた。このスクリーニングにより選抜された複数の遺伝子についてさらに機能解析を進めており、既にいくつかについては成功している(Takemoto et al, Cell rep 2020)。またRAD21L型コヒーシンおよびREC8型コヒーシンと相互作用する共通の因子、それぞれにユニークな因子の同定を行い、減数分裂におけるクロマチン構造の解析を行った(Fujiwara et al., PLOS Genet. 2020)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
MEIOSIN標的遺伝子の一つで4930432K21rik について解析を行った。 4930432K21rikは特徴的なドメインを持たないため当初機能の推定が困難であった。しかしながら、4930432K21rik の抗体を作成し、精巣クロマチン分画からのIP-MS解析から減数分裂組換え因子(BRCA2, HSF2BP)やssDNA binding protein (RPA1)との相互作用が示唆された。さらに4930432K21rikは染色体の軸に沿ってfoci状の局在を示すことが判明した。さらにKOマウスの表現型解析から、4930432K21rikは減数分裂組換えの素過程でDSBによって露出されたssDNA末端に局在して、RAD51-BRCA2リコンビナーゼをリクルートすると同時にssDNA binding proteinをキックアウトする役割があることが判明した(Takemoto et al, Cell rep 2020)。 またさらに、MEIOSIN targetであるZFP541はmeiotic prophaseの後半から半数体のround spermatidで発現するZinc fingerドメインを持つタンパク質であることが判明した。Zfp541を欠損させると減数第一分裂以降のステージへの進行が見られず雄性不妊を示すことが明らかになり、減数第一分裂をexitする過程で必須の役割を担っていることが推定された。またこれと相互作用するKCTD19についても欠損マウスの解析を行って減数第一分裂をexitする過程で必要であることが判明した(Takada et al, bioRxiv 2021)。またRAD21L型コヒーシンおよびREC8型コヒーシンと相互作用する共通の因子、それぞれにユニークな因子の同定を行った。減数分裂型コヒーシンは相同染色体の対合のcheckを行うHORMAD1, HORMAD2と相互作用していること、さらにHORMAD1, HORMAD2はコヒーシン軸を足場にして、相同染色体の対合状態を監視していることが明らかとなった(Fujiwara et al., PLOS Genet. 2020).
|