研究領域 | 多様かつ堅牢な細胞形質を支える非ゲノム情報複製機構 |
研究課題/領域番号 |
19H05744
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
油谷 浩幸 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (10202657)
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研究分担者 |
永野 隆 大阪大学, 蛋白質研究所, 招へい教授 (70272854)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | エピゲノム / クロマチン高次構造 |
研究実績の概要 |
エピゲノム情報が非対称分裂現象の過程でどのように複製され、変化するかを明らかにするために1細胞マルチオミクス解析技術を確立すべく、研究開発を進めた。 異所性にAFPを産生する胃がん組織から樹立されたオルガノイド細胞株を用いてトランスクリプトームに加えてATAC解析およびHi-C解析を実施した。単一細胞に由来するオルガノイド細胞集団内において肝細胞あるいは腸管細胞それぞれに特異的な遺伝子発現を示す異なる細胞系譜の集団が混在していることが判明した。ATAC-seqにより、系譜特異的にオープンとなる転写制御領域の配列に濃縮される転写因子結合モチーフの解析から、肝細胞分化制御に関与する転写因子候補としてFOXA1/2やHNF4Aが確認された。分化過程においては転写因子のアイソフォームの多様性を明らかにすべく、ロングリードシーケンサーを用いたRNAアイソフォームの解析を一細胞解像度で実施した。 1細胞レベルのマルチオミクス解析による非ゲノム情報複製の解明に向け、1細胞Hi-Cと1細胞RNA-seqを融合させた新技術の開発、および造血幹細胞における非ゲノム情報複製の1細胞解析にその新技術を実践応用するための研究を併せて推進した。造血幹細胞における非ゲノム情報複製の解析では、1細胞ごとに単離した造血幹細胞から産み出される2つの娘細胞をlive cell段階から個別に扱う必要がある。そのため1細胞Hi-Cと1細胞RNA-seqを融合させた新技術に更に改変を加え、当該研究への最適化を進めた。これらの研究開発は特任研究員のLeung博士が担当し、新学術領域内の岩間(東京大学)らとの共同研究として実施した。データ解析については研究協力者のTanay博士(イスラエル・ワイツマン科学研究所)、Varnai博士(イギリス・バーミンガム大学)らとの共同で実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一細胞からのトランスクリプトームとオープンクロマチン情報を統合するマルチオミクス情報解析基盤を樹立し、さらにロングリードシーケンス法による一細胞RNAアイソフォーム解析を確立した。 非ゲノム情報を鋭敏に反映するRNA-seqデータとクロマチン高次構造に関するHi-Cデータを同じ1細胞から取得するための基本的手順を確立することができた。まだ技術的課題は残るものの、新技術により得られるデータの品質や同時処理できる細胞数などの点で、前年度に比べ着実な向上を実現することができた。
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今後の研究の推進方策 |
同一細胞のRNAとATAC-seq解析、ロングリードによるRNAアイソフォーム解析手法の確立およびデータ解析手法の開発を継続するとともに、Hi-C解析データ(bulk)との統合を検討する。さらに昨年度同定した転写因子アイソフォームそれぞれの標的領域の転換について検証を進める。 トランスクリプトームとHi-Cデータの同時取得について、開発中の技術と造血幹細胞における非ゲノム情報複製解析のためのpaired-daughter cell assayとを組み合わせた際に、Hi-Cデータのノイズが増大することが判明したため、解決策を検討中である。またHi-Cデータを三次元シミュレーションモデル構築に応用するため、相同染色体同士を鑑別可能なF1ハイブリッドマウス由来の細胞を用いた実験を予定している。
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