研究領域 | 多様かつ堅牢な細胞形質を支える非ゲノム情報複製機構 |
研究課題/領域番号 |
19H05747
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
谷内 一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (20284573)
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研究分担者 |
河本 宏 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (00343228)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 非ゲノム情報 / 血球系細胞分化 / 遺伝子発現制御 / エピジェネティックス |
研究実績の概要 |
多細胞生物の発生過程で起こる細胞形質の継承過程では、細胞分裂時の正確なゲノム情報の複製に加え、DNAメチル化やヒストン翻訳後修飾などの化学修飾性コード、高次クロマチン構造、非コードRNAを含めた非ゲノム情報の継承が必須である。しかしながら、このような非ゲノム情報は可塑性を有し、それ故に書き換えによる細胞形質の改変が可能であり、多細胞生物に於いて同じゲノム情報を持ちながら多様な細胞種を生み出す基本原理として機能する。即ち、細胞分裂時に非ゲノム情報は状況に応じた改変と精密な複製が緻密に制御される必要があり、その制御機構の破綻は様々なヒト疾病の発症に関与することが知られており、非ゲノム情報複製制御機構の解明は医学/生物学の重要な課題である。しかしながら、多様な修飾が多階層で相互干渉する非ゲノム情報の複雑性により、非ゲノム情報がどのように複製されるのか、その理解に向けた取り組みは端緒に付いたばかりである。 本研究課題では、血球系細胞分化を研究対象にし、1. DNAメチル化維持と細胞分化、2.ヒストン修飾維持と細胞分化、3.高次クロマチン構造の維持機構 に焦点をあて、細胞形質の継承と改変を制御する非ゲノム情報複製機構を解明することを目的とした研究計画を構築した。 具体的には、Crispr/Cas9の系用いた網羅的な分子機能喪失系を構築し、非ゲノム情報の複製に重要な分子の網羅的探索を行う、同時に高次クロマチン構造の形成と維持に関わる核タンパクの同定とその機能解析を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題ではT細胞分化過程での細胞形質の維持に必須のDNAメチル化及び抑制的ヒストン修飾といった非ゲノム情報の複製機構の解明を目的に、Crispr/Cas9を用いた網羅的な分子機能喪失系を構築し、非ゲノム情報の複製に重要な分子の網羅的探索を行う。その方法として、Thpok、Pax5の発現誘導を、それぞれキラーT細胞からヘルパーT細胞、T細胞からB細胞への細胞形質転換の指標とし、それぞれの遺伝子発現を蛍光タンパクの発現で可視化するレポーターアレルを作製のためのターゲットベクターを作製した。gRNAライブラリーは、19150のコーディング遺伝子がカバーされているレトロウイルスgRNAライブラリーを使用する予定であり、標的細胞であるCD8T細胞でのレトロウイルス感染効率を検討したが、CD8T細胞では網羅的な探索に十分な感染効率を得ることは困難であり、レトロウイルス系への変更を検討中である。 また局所特異的なクロマチン免疫沈降法を用い、Thpok遺伝子座ではサイレンサーをアンカーとし、CD8細胞特異的に、高次クロマチン構造形成が形成される結果を得た。この結果はDNA-FISH法により確認された。またこの高次クロマチ構造形成にはBcl11b転写因子が必要である結果を得た。 以上、研究実施において幾つかの予想外の状況が生じたが、適時迅速に対応しており研究は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も非ゲノム情報の複製に関与する分子の同定を目的に、Thpok、Pax5の発現誘導を細胞形質転換の指標としたCrispr/Cas9を用いた網羅的な分子機能喪失系を構築を継続する。この系が確立されれば汎用性は高いことから、CD8T細胞でのCD8遺伝子の発現維持やCD4遺伝子サイレンシング維持、RNAスプライシング制御に関与する分子の探索も行う。 またBcl11b転写因子がどの様な分子を介して、高次クロマチ構造形成に関与するのか明らかにする為に、Bcl11b転写因子と会合する分子の網羅的同定を可能にする実験系を構築していく。 また、領域内共同研究により1細胞Hi-C解析を行い5-AzaC投与/ Bcl11b欠損の高次クロマチン構造への影響を全ゲノムレベルで解析する。同様に、領域内共同研究により1細胞DNAメチル化解析を行い、不完全なCD4遺伝子サイレンシング状態でのDNAメチル化状態の感知と複製機構の解明を行う。
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