細胞分裂を超えた細胞形質の継承過程ではゲノム情報の正確な複製に加え、DNAメチル化やヒストン翻訳後修飾などの化学修飾性コード、高次クロマチン構造、非コードRNAを含めた非ゲノム情報の継承が必須である。一方でこのような非ゲノム情報は可塑性を有し、それ故に書き換えによる細胞形質の改変が可能であり、多細胞生物に於いて同じゲノム情報を持ちながら多様な細胞種を生み出す基本原理として機能する。即ち、状況に応じた非ゲノム情報の改変と精密な複製を制御する分子機構の解明は医学・生物学の重要な課題である。本研究課題では、血球系細胞分化を研究対象におき、細胞形質の継承と改変を制御する非ゲノム情報複製機構を解明することを目的とした研究計画を構築した。2023年度はCrispr/Cas9 gRNAライブラリーのスクリーニングにより得られたCd8遺伝子発現維持に必須の分子候補であるDot1L、Runx3、Ambra1の3分子の機能解析、作用機序の解明を目的とした研究を実施した。またT細胞からのPax5の脱抑制的発現を指標にしたスクリーニングを行う為にPax5遺伝子座にDsRed蛍光タンパク質を挿入したレポーターTgマウスを樹立し、その発現パターンを確認した後に、研究分担者の河本に供与した。 また公募班の鐘巻との共同研究により、高次クロマチン構造の形成と維持に関わる核タンパクの同定とその機能解析を実施する為の新たな研究手法として薬剤依存的に一過性に標的タンパク質をマウス生体内で分解するマウス生体内AID2法を構築した。
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