研究領域 | 多様かつ堅牢な細胞形質を支える非ゲノム情報複製機構 |
研究課題/領域番号 |
19H05748
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
丹羽 仁史 熊本大学, 発生医学研究所, 教授 (80253730)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 転写因子ネットワーク / 細胞複製 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
1)野生型ES細胞におけるrepli-ATAC-seq解析により、DNA複製時にchromatin accessibilityが低下し、その後2-4時間かけて回復することが分かった。 特に、転写活性が高い領域において、DNA複製後にchromatin accessibilityの急速な回復が見られることから、ES細胞で特異的に高発現する転写因子Klf2/4/5の機能的関与を調べることにした。Klf2/4/5全てを欠損させると (TKO)、ナイーブ型多能性が維持できなくなるが、TKO細胞にKlf2 (TKO+K2)、あるいは転写因子Nanog/Esrrb/Tbx3を強制発現させると (TKO+NET)、ナイーブ型多能性をレスキューできることを既に報告している。TKO+K2, TKO+NET細胞株において通常のATAC-seq解析を行ったところ、Klf4結合領域のchromatin accessibilityの低下が見られる一方で、RNAポリメラーゼII結合領域のchromatin accessibilityへの影響は殆ど見られなかった。これらの細胞におけるS期の割合(EdU取り込み能力)に大きな差が無かったので、次にrepli-ATAC-seq解析を行ったところ、Klf4結合領域のみならず、Klf4結合が見られないRNAポリメラーゼII結合領域やMED1結合領域においても、DNA複製後のchromatin accessibilityの回復が顕著に遅れることが分かった。従って、Klf2/4/5は、DNA複製後の転写活性化全体のchromatin accessibilityの回復に寄与する可能性が考えられる。 2)転写因子Dppa2/4とポリコーム群Pcgf6が新規DNAメチル化の標的遺伝子におけるH3K4me2/3修飾とDNAメチル化修飾を拮抗的に制御し、ES細胞分化のfidelityに寄与することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
repli-ATAC-seq解析を用いてDNA複製後のchromatin accessibility回復のカイネティクスを調べることにより、コアな転写因子Klf2/4/5が直接結合する領域だけでなく、転写メディエーター複合体の活性制御を介して転写活性化領域全体の制御に関わる可能性を見出すことができた。以上により、本研究課題の中心テーマであるDNA複製後の転写ネットーワーク活性の再構築について、その分子機構の一端を明らかにすることが出来たと考えている。また、転写因子Dppa2/4とPRC1.6ポリコームによる新規DNAメチル化標的の拮抗的制御が、ES細胞におけるエピジェネティック・プライミングとして機能している可能性も見出すことが出来た。従って、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1)引き続き、DNA複製後の転写ネットワーク活性再構築へのKlfの関与を追究する。具体的にはオーキシンデグロン法によりKlf2/4/5各タンパクの即時欠損が可能なES細株等を作成して、Klf量の変化によるDNA複製後のオープンクロマチン回復への影響についてrepli-ATAC-seq解析を行う。また repli-CUT&Tag法を用いて、Klf量の変化によるDNA複製後のRNAポリメラーゼIIやメディエーター(MED1)結合への影響の解析を行う。以上の解析を通して、DNA複製後の転写ネットワーク活性再構築における転写因子Klf機能の全容解明を目指す。 2)本年度は、Dppa2/4とPcgf6の共通標的に結合するYY1/YY2とREX1の作用機序の解析を進め、多能性期に特異的に発現する転写因子を介したエピジェネティック・プライミングの仕組みとその意義の全容解明を目指す。
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