計画研究
精子核や体細胞核は卵細胞内で再プログラム化され、全ての細胞へと分化する全能性を獲得する。全能性獲得過程で、これらの核は急激に膨化し、脱凝縮したクロマチンを有する特徴的な形態を示す。このようにして胚の全能性を支える核、即ち「全能性核」がつくり上げられるが、その核内構造や核形成にかかわる因子が全能性のプログラムといかに関連しているかについてはほとんど分かっていない。さらに近年、核の機能がその機械的性質と相関することを示唆する研究結果が数多く報告されているが、全能性核についての知見は極めて乏しい。そこで本研究では、全能性を有するマウス受精卵や初期胚期における核の機能に着目し、少数細胞解析技術や生物物理解析手法を駆使し、核形成や機能維持に関わる因子やその作用機序解明を目指す。マウス受精卵の前核内構造を明らかにするため、核骨格タンパク質に着目した。核骨格タンパク質として核アクチンタンパク質が知られているが、特異的プローブによってその挙動を調べたところ、雌雄前核内に重合化アクチンの網目状構造が作られることを発見した。これは、体細胞の核内でG1初期に観察される重合化アクチンと異なり、1細胞期を通じて前核の核骨格を形作ることがわかった。また、この受精卵特異的に形成される核アクチンの重合化を人為的に操作する方法を発展させ、胚発生における役割を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度の実験においては、当初の計画通り、受精卵特異的に形成される重合化核アクチン構造を人為的に制御する方法を発展させた。これを利用し、受精卵特異的重合化核アクチンの役割を様々な視点から明らかにした。例えば、核サイズの調節やDNA損傷修復において、核アクチンの重合化が必要であることがわかった。また、受精卵特異的核アクチンの重合化は、2細胞期における胚性ゲノムの活性にも影響を与えることも明らかにした。以上の結果を通じて、受精卵前核内の核骨格が、全能性の獲得過程における役割を示した。加えて、胚性ゲノム活性化の制御機構の一つに、母性PIASyタンパク質の分解が重要な役割を果たすことも報告した。また、マウス受精卵前核の機械的性質の解析に生物物理解析手法の導入に成功し、前核が有する特殊な物性を示唆する結果も得ている。
令和2年度は、以下に示す3つの方向性で研究を進める(1)受精卵特異的核骨格構造の発生生物学的意義の解明 令和元年度の実験により、受精卵特異的重合化核アクチンの役割の多くが明らかとなった。これらの細胞生物学的役割を統合し、受精卵の前核内にのみ何故重合化核アクチンが必要となるのかモデルを提唱し、論文として発表することを計画している。(2)マウス初期胚における核の硬さや粘弾性の変化 令和元年度の実験から、ガラスマイクロニードルを使った顕微力学操作と細胞生物学の分子操作を組み合わせて、前核の機械特性を計測可能であること示した。この実験系を用い、受精卵から胚盤胞期胚までの各ステージにおける核の機械特性を決定する。また、発生の各ステージ間、あるいは体細胞核や幹細胞核から得られたデータとの比較解析により、全能期の核に特徴的な機械特性を同定する。また、同定した機械特性と各ステージの発生能力の相関を調べ、核の物性と胚の発生能力の関係という新たな視点で研究を進めていく。(3)全能性核の特性を模倣した核の再構築系の探索 上記2つの到達目標が達成された際、全能性核に特異的な核内構造と物性が明らかとなる。これらの評価基準をもとに、様々な方法で全能性核の特性を模倣した核を体細胞核から人為的に作出する方法を試す。我々が独自に開発した核移植法を用い、核骨格、クロマチン構造そして物性といった核の性質を出来るだけ全能核様に模倣できる条件の検討を行う。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (30件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件) 図書 (2件) 備考 (3件) 産業財産権 (1件)
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巻: 9 ページ: 758
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