研究領域 | 全能性プログラム:デコーディングからデザインへ |
研究課題/領域番号 |
19H05751
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
宮本 圭 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (40740684)
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研究分担者 |
島本 勇太 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 准教授 (80409656)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 全能性 / 核構造 / 核骨格 / 核アクチン / リプログラミング / 転写 / 機械特性 |
研究実績の概要 |
精子核や体細胞核は卵細胞内で再プログラム化され、全ての細胞へと分化する全能性を獲得する。全能性獲得過程で、これらの核は急激に膨化し、脱凝縮したクロマチンを有する特徴的な形態を示す。このようにして胚の全能性を支える核、即ち「全能性核」がつくり上げられるが、その核内構造や核形成にかかわる因子が全能性のプログラムといかに関連しているかについてはほとんど分かっていない。さらに近年、核の機能がその機械的性質と相関することを示唆する研究結果が数多く報告されているが、全能性核についての知見は極めて乏しい。そこで本研究では、全能性を有するマウス受精卵や初期胚期における核の機能に着目し、少数細胞解析技術や生物物理解析手法を駆使し、核形成や機能維持に関わる因子やその作用機序解明を目指す。 2020年度までの研究により、マウス受精卵前核内に受精卵特異的重合化核アクチンが存在し、胚発生に重要な因子であることを発見した。以上の結果より、全能性核の構築に関する新たな機構を発見し、本研究計画における到達目標の一つである「全能性核の形成における核アクチンの役割」について、成果をあげた。2021年度は、本研究計画後期の到達目標として掲げていた、「全能性核の特性を模倣した核の再構築」について、全能性を有するマウス初期胚に直接細胞核を移植する新規核移植系を立ち上げることによって、マウス核のみならず異種の野生絶滅動物の細胞核の転写プログラム初期化誘導に成功した。これは、マウス胚において異種の細胞核から直接転写リプログラミングを誘導する初めての報告であり、従来のクローン技術とは異なるアプローチで、細胞核のクロマチン・遺伝子発現状態を直接的に再プログラム化するシステムを立ち上げ、全能性核の再構築という目標に向けて前進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和3年度の実験においては、細胞周期を人為的に停止させたマウス初期胚(4細胞期胚)に同種あるいは異種の細胞核を移植することで、移植した細胞核が1日以内にレシピエント胚のクロマチン・転写状態に近づくことを発見した。この新規核移植系を用いて、野生絶滅が報告されているシロオリックスの細胞核から胚性遺伝子の活性化に成功し、様々な哺乳動物の細胞核を初期胚の核状態へと近づけ、転写リプログラミングが可能であることを示した。 次に、マウス初期胚における核の硬さや粘弾性の変化を調べる実験においては、生きたままの初期胚核の硬さを測定する実験系の確立に成功した。さらに本実験系を用いて、全能性を有する初期胚の特定の時期にのみ、核が特殊な物性を有することを明らかにした。この全能期特異的な物性は、核骨格構造と関わりがあることも見つけている。また開発した技術を共同研究で未受精卵に応用し、卵を取り囲む透明帯の機械的不均一性が受精に及ぼす影響を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、昨年度に引き続き以下に示す3つの方向性で研究を進める。 (1) 受精卵特異的核骨格構造の発生生物学的意義の解明:令和3年度までの実験により、受精卵特異的重合化核アクチンが胚性ゲノム活性化に関与することを示すデータを得た。今年度は、重合化核アクチンが遺伝子発現の活性化を制御する分子機序の解明を目指し、重合化核アクチンにより核内の活性が変化する転写因子を探る。また、重合化核アクチン形成の上流因子の同定も試み、アクチンの核骨格構造形成を介した胚発生の制御機構の包括的な理解を目指す。 (2) マウス初期胚における核の硬さや粘弾性の変化:令和3年度の実験から、生きたままマウス初期胚の核の物性を評価する新手法を確立した。また、本手法を用いて、全能性を有する特定の時期に核が非常に柔らかい状態へ変化することがわかった。この特殊な物性と全能性との関係性を調べるため、特殊な物性に寄与する分子的要因を探索する。予備実験の結果より、同時期の核骨格構造も特殊であるデータも得ており、生物物理解析、Single embryo RNA-seq解析などを駆使して、特殊な物性の発生生物学的意義について知見を得る。 (3) 全能性核の特性を模倣した核の再構築系の探索:我々が独自に開発した核移植法を用いて、同種・異種の分化細胞核を初期胚様に初期化する手法を確立した。そこで、それらの初期化を受けた細胞核の全能性・多能性を評価していきたい。具体的には、新規核移植法で初期化した細胞から幹細胞を樹立する方法を模索する。あるいは、初期胚様に初期化された核を通常の核移植に供試し、その全能性について評価したい。
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