計画研究
精子核や体細胞核は卵細胞内で再プログラム化され、全ての細胞へと分化する全能性を獲得する。全能性獲得過程で、これらの核は急激に膨化し、脱凝縮したクロマチンを有する特徴的な形態を示す。このようにして胚の全能性を支える核、即ち「全能性核」がつくり上げられるが、その核内構造や核形成にかかわる因子が全能性のプログラムといかに関連しているかについてはほとんど分かっていない。さらに近年、核の機能がその機械的性質と相関することを示唆する研究結果が数多く報告されているが、全能性核についての知見は極めて乏しい。そこで本研究では、全能性を有するマウス受精卵や初期胚期における核の機能に着目し、少数細胞解析技術や生物物理解析手法を駆使し、核形成や機能維持に関わる因子やその作用機序解明を目指す。これまでのマウス受精卵を用いた研究より、全能性核の構築に関する新たなキープレーヤとして核内アクチンタンパク質を同定した。また、本研究計画における到達目標の一つである「全能性核の特性を模倣した核の再構築」について、マウス初期胚に直接体細胞核を移植する新規核移植系を立ち上げることによって、様々な哺乳動物細胞核から転写リプログラミング・核のリモデリングを誘導する実験系を報告した。さらに2022年度は、一つの大きなテーマに掲げていた「マウス初期胚における核の硬さや粘弾性の変化」について、マウス初期胚を用いて初めて核の物理特性を同定した。さらに、マウス2細胞期胚核の極度に柔らかく可塑的な核の物性にかかわる因子の同定も成功した。このように、研究計画全体の目標達成に向けて大きく前進した。
1: 当初の計画以上に進展している
令和4年度の実験においては、生きたままのマウス初期胚において核の硬さや粘弾性の変化の計測に成功した。この研究より、マウス2細胞期胚の核は、他の発生ステージと比較して核が変形し、さらにその硬さも特に軟らかい性質を有することがわかった。これは、2細胞期において、核膜上のラミンB1タンパク質が一過的にオートファジーによって分解されることによって引き起こされることを示した。さらに、内在性のラミンB1の分解を特異的に阻害する方法も見つけ、2細胞期におけるラミンB1の分解を阻害したところ、2細胞期に起こるはずの胚性ゲノム活性化が誘導されなかった。このように、全能期の核に特異的な物性を初めて明らかにするとともに、それに関わる分子機序や発生における役割についても知見を得た。
最終年度となる令和5年度は、以下に示す3つの方向性で研究を進め、当初の研究計画の完遂を目指す。(1) 受精卵特異的核骨格構造の発生生物学的意義の解明:令和4年度までの実験により、受精卵特異的重合化核アクチンが胚性ゲノム活性化に関与することを示すデータを得て、その下流にある転写因子も特定した。今年度は、重合化核アクチン形成の上流因子の同定を試み、アクチンの核骨格構造形成を介した胚発生・遺伝子発現制御機構の包括的な理解を目指す。(2) マウス初期胚における核の硬さや粘弾性の変化:令和4年度の実験から、マウス2細胞期胚核の特殊な物性とそれを規定する分子としてラミンB1を同定した。さらに、ラミンB1の分解が胚性ゲノムの活性化に重要であることも発見した。今年度は、2細胞期におけるラミンB1の一過的な分解が、どのように胚性ゲノム活性化に寄与するかについて、クロマチンレベルの解析を行い知見を得る。また、マウス2細胞期胚の核の特殊な物性と胚の発生能の関係についても調べる。以上の実験を通じて、初期胚発生における核自体の性質変化が、全能性獲得過程で必須となることの証明に挑む。(3) 全能性核の特性を模倣した核の再構築系の探索:我々が独自に開発した核移植法を用いて、同種・異種の分化細胞核を初期胚核様に初期化する手法を既に確立した。今年度はさらに、開発した新規核移植法で初期化した細胞から幹細胞を樹立する方法を検討し、当初の予定以上の成果を目指す。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 8件、 招待講演 11件) 備考 (1件)
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https://researchmap.jp/KeiMiyamoto/