計画研究
受精卵は、胚体組織と胚体外組織の両方に分化可能な潜在能力である全能性を有する。この全能性は、内部細胞塊(ICM)と栄養膜細胞(TE)への最初の分化が生じる胚盤胞期までに消失する。全能性の維持と消失には、エピゲノムの可塑性の維持と不可逆的な変化がそれぞれ重要と考えられるが、その分子実体は不明である。本研究では、受精卵の父母アレルが有する機能の違いに着目して、全能性の理解に向けた研究を進めている。受精卵のエピゲノムの大きな特徴に、父母アレル間のヒストン修飾のゲノムワイドな非対称性がある。この父母アレル間非対称性は着床前発生過程で大きく失われるが、例外もあることがわかってきた。例えば、ポリコーム抑制複合体2 (PRC2)により付与されるH3K27me3修飾は、母性アレル特異的な局在を維持しながら発生し、DNAメチル化非依存的なゲノム刷り込みを制御する。このことから、配偶子形成過程におけるヒストン修飾の確立機構や受精後の動態の解明は、全能性の理解に重要であると考えられる。本年度、井上は、卵形成過程におけるH3K27me3の確立機構、受精直後に起こる発生関連遺伝子群からのH3K27me3の消失機構とその意義、および、全能性が消失する時期(2細胞期胚から胚盤胞期胚)におけるポリコーム制御機構に関する研究を進めた。それぞれの研究について示唆に富む学術的価値の高い知見を得ており、近々すべて論文化に至る予定である。山口は、全能性に類似した性質を示す2細胞期胚様胚性幹細胞(2CLC)において、リボソームRNAプロセシング関連遺伝子の異常とp53の活性化がESCから2CLCへの移行を促進することを見出した。この研究を発展し、細胞微小環境が全能性への移行に及ぼす影響も明らかになりつつある。DNA複製関連機構の操作が分化全能性に影響を及ぼす結果も得られており、近々論文化する予定である。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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Nucleic Acids Research
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