研究領域 | 全能性プログラム:デコーディングからデザインへ |
研究課題/領域番号 |
19H05755
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
新冨 圭史 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (60462694)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 再構成 / 染色体 / 再プログラム化 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
いくつかの哺乳類では、体細胞の核を、除核した卵に移植することによってクローン個体を作出できる。この事実は、全能性をもたらす生化学的活性が卵の細胞質中に存在することを意味するが、その分子的実態はほとんど理解されていない。私は、「マウスでのクローン作出の際、分裂期(未受精卵)のレシピエントにドナー核を移植しなければならない」という経験則に着目し、独自の実験系の開発を試みた。具体的には、ドナー核のモデルとしてカエル赤血球の核を単離し、レシピエント細胞質のモデルとして細胞周期を操作できるカエル卵抽出液を調製した。赤血球の核を、分裂期の卵抽出液に加えると、核膜崩壊に続いて染色体構築が観察された。その後、卵抽出液の細胞周期を間期に進めると、核が再形成されDNA複製も検出された。一方で、赤血球核を(分裂期を経ずに)間期抽出液に加えても複製が検出されなかった。上記の結果は、分裂期に起こるドナー核の構造変化が再プログラム化に重要であることを強く示唆する。分裂期卵抽出液では赤血球核-染色体変換が観察されるので、その前後でクロマチン結合タンパク質がどのように変化するか検討した。その結果、分裂期において、コンデンシンIとII、トポイソメラーゼII(トポII)、H1.8(初期胚特異的なリンカーヒストンバリアント)が新たに結合することが判明した。そのうち、コンデンシンIとトポIIは赤血球核-染色体変換に必須であり、DNA複製能の回復に中心的な役割を担うことが強く示唆された。そこで、分裂期におけるトポIIの機能解析を進めた。意外にも、トポIIは、異なる染色体間のDNAの絡まりをほどくだけでなく、同一染色体内でDNAの絡まりを作ることによっても染色体構築に貢献していることが証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画開始当初、実験系を確立し、その後、核の再プログラム化に中心的な役割を果たす因子の候補を絞り込むことが、計画全体の律速段階であると考えていた。周到な準備を行い、また、作業の効率化をはかった結果、大きな滞りなく実験系の構築と候補因子の絞り込みを終えられた。卵抽出液、特異抗体、組換えタンパク質などの、高品質の実験材料を準備することができた点でも、次年度以降の計画遂行に向けた準備を整えられた。
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今後の研究の推進方策 |
再プログラム化された核が、DNA複製能を回復するために必要な因子の同定を目指す。これまでの研究によって、コンデンシンIとトポIIが再プログラム化に中心的な役割を担う可能性が示唆された。まず、コンデンシンIやトポIIを除去した分裂期抽出液で赤血球核をインキュベーションしたのち、間期に進めたときにDNA複製能が回復するかどうかを調べる。回復しない場合には、これらを除去した抽出液で作った間期核を単離し、質量分析によってクロマチン結合タンパク質を同定する。対照実験として複製能の回復した核についても同様の解析を行い、それらの結果を比較することにより、複製開始にいたるどのステップに障害があるのかを検討する。また、赤血球核が分裂期卵抽出液と相互作用することによって、コヒーシンやH1.0(体細胞特異的なリンカーヒストンバリアント)がクロマチンから解離することも明らかになった。これまでに、研究代表者自身の研究によって、コヒーシンの解離はWaplが不可欠であることが示されており、H1.0の解離にはNap1の関与する可能性が示唆される。これらの調製因子を除いた時に赤血球核-染色体変換やDNA複製が起こるのかを解析し、これらの解離が再プログラム化に果たす役割を明らかにする。
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