研究領域 | 全能性プログラム:デコーディングからデザインへ |
研究課題/領域番号 |
19H05758
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小倉 淳郎 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 室長 (20194524)
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研究分担者 |
日野 敏昭 旭川医科大学, 医学部, 助教 (10550676)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 全能性 / ゲノム再プログラム化 / 核移植クローン / 受精 / 胎盤 |
研究実績の概要 |
本年度は、核移植クローンを通じた全能性エピゲノムの理解を目指し、以下の2つの実験を行った。それぞれゲノム編集によりヘテロにノックアウトしたドナー細胞を用いた核移植により遺伝子発現を正常化したクローン胚を作出し、その発生能の解析および次世代シーケンサーなどを用いた全エピゲノム状態を調査した。 ①母方ヘテロKO(国立成育医療研究センター高田修治先生より)を用いてIG-DMRを正常化することにより、Dlk1 など複数のcoding遺伝子だけでなく、Mirg領域にある大規模なmicro(mi)RNA群の発現も正常化し、そのターゲット遺伝子も含めた多くの遺伝子の発現を正常化すると期待される。しかしながら、クローン産子の出生率および胎盤形成の正常性は実験ごとのばらつきが大きく、さらに遺伝的背景を均一化し、n数を増やす必要がある。 ②クローン胚では、H3K27me3依存性の胎盤特異的刷込み遺伝子でloss of imprinting (LOI)が生じ、両アレル性の発現(高発現)が生じていることが明らかになっっている。これらのうち、Sfmbt2、Slc38a4、Gab1、Smoc1、およびSfmbt2内のmiRNAクラスターの計5つの母方ヘテロKO体細胞を用いて、正常な父方発現を示すクローン胚を作出した。その結果、Sfmbt2 miRNA の発現正常化によって胎盤の形成異常(巨大化)が改善するとともに、出生率も3%から7%へ改善した。 以上より、クローン胚の発生に影響するエピジェネティクス異常としてH3K27me3の LOIによる Sfmbt2 miRNA の過剰発現(両アレル性発現)を同定し、その正常化によるクローン効率の改善に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クローン胚の発生に影響するエピジェネティクス異常としてH3K27me3の Loss of Imprinting による Sfmbt2 miRNA の過剰発現(両アレル性発現)を同定し、その正常化によるクローン効率の向上および胎盤形成異常の改善に成功した。特にマウスクローンにおける胎盤形成異常(巨大化)は、最初の報告以来20年以上にわたる大きな謎であった。この少なくとも1つの原因を特定できたことは、今後の哺乳類のクローン技術の改善のみならず、本領域でも課題としている胎盤形成のエピジェネティクスの解明に貢献していくことと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、核移植クローンを通じた全能性エピゲノムの理解を目指し、IG-DMRおよびH3K27me3依存性の胎盤特異的刷込み遺伝子の2つの研究を行ってきた。 前者については、DNAメチル化状態を正常化した後も、クローン産子の出生率および胎盤形成の正常性は実験ごとのばらつきが大きいため、今後さらに遺伝的背景を均一化し、n数を増やす予定である。また、この正常化に伴い、Dlk1 など複数のcoding遺伝子、Mirg領域にある大規模なmicro(mi)RNA群、さらにそのターゲット遺伝子も含めた多くの遺伝子の発現が正常化しているかの確認をする。 後者については、これまでにSfmbt2 miRNA の発現正常化によって胎盤の形成異常(巨大化)を改善させ、出生率も3%から7%へ改善したが、まだいずれも目標には達していない。クローン胎盤でloss of imprinting (LOI)が生じている遺伝子は5から8遺伝子あると考えられるため、その他の遺伝子の影響も検討する予定である。また、これらのcoding 遺伝子の中には、Sfmbt2やGab1 などでは、発現アレルである父方アレルを KO すると、補償的に母方アレルが発現する現象がある。これは、通常の刷込み遺伝子にはみられない現象であるので、今後、そのメカニズムを明らかにしたい。
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