研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05762
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
青野 重利 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 教授 (60183729)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 酸素センサータンパク質 / 走化性制御システム / ヘム / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
本年度の研究においては、これまでに実施している水素センサータンパク質の生合成反応機構の解明に関する研究においては、水素センサーとして機能するヒドロゲナーゼの活性中心の構成要素であるFe(CN)2CO錯体の生合成に関与するアクセサリータンパク質HypC、HypDの結晶構造決定に成功した。 上記の研究に加え、本年度の研究においては、酸素に対する走化性制御システムにおける酸素センシングならびに酸素に依存したシグナル伝達反応の分子機構解明を目的とした研究も実施した。枯草菌等の酸素に対する走化性制御システムであるHemAT/CheA/CheW複合体は、酸素センサータンパク質HemATとシグナル伝達タンパク質であるCheA、CheWから構成される、好熱性Bacillus属細菌であるBacillus smithii由来のHemAT、CheA、CheWを単離精製し、CheA/CheWの二者複合体、HemAT/CheA/CheWの三者複合体が溶液中で安定に生成することを明らかにした。クライオ電顕によるこれら複合体の立体構造決定の予備実験として、ネガティブ染色した複合体サンプルの電子顕微鏡像の観測を行ったところ、直径が異なるリング状構造が観測された。分子サイズから考えると、CheA、CheA/CheW、およびHemAT/CheA/CheWそれぞれのtrimer of dimerが形成されていると考えられる。本酸素センサーシステムにおいては、CheAとCheWがシグナル伝達の足場となるリング状構造を形成し、そこにセンサータンパク質であるHemATが付加した超分子複合体を形成するものと推定される。現在、この仮説を検証するための実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、遷移金属を構成要素とするセンサーモジュールを有したセンサータンパク質の生合成過程におけるセンサーモジュールの構築とタンパク質部分への組込みの詳細な分子機構を解明することにより、細胞内生命金属動態制御を鍵反応とするセンサー分子システムの構築原理を理解し、センサーモジュールによる気体分子センシングの動的過程、気体分子センシングにおいて誘起されるタンパク質構造変化・機能制御を各種分光学的測定、結晶構造解析、生化学・分子生物学的解析によって明らかにすることを目的としている。水素センサータンパク質の生合成反応機構の解明に関する研究においては、センサー本体として機能するNiFe錯体の配位子として機能する一酸化炭素の生合成を触媒する酵素HypXの結晶構造決定に成功している。HypXにより合成されたCOを利用し、ヒドロゲナーゼの活性中心の構成要素であるFe(CN)2CO錯体の生合成に関与するアクセサリータンパク質HypC、HypDの結晶構造決定にも成功しており、本研究は順調に進捗しているものと判断される。また、本年度より新たに取り組んでいる、酸素に対する走化性制御システムHemAT/CheA/CheW複合体についても、クライオ電子顕微鏡による単粒子構造解析による構造決定に向けて順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、水素センサータンパク質生合成過程において、一連のアクセサリータンパク質がどのような組合せ・順番で反応することによりセンサータンパク質が合成されるのか、その詳細な分子機構の解明を行う。そのために、X線小角散乱、および結晶構造解析を用いたアクセサリータンパク質複合体の構造解析、アクセサリータンパク質から水素センサータンパク質へのセンサーモジュール輸送反応過程の解析を計画している。 また、酸素に対する走化性制御システムの構造機能相関解明に向けた研究にも引き続き取り組む予定である。本研究では、酸素に対する走化性(Aerotaxis)制御系において、ヘムを酸素センサーモジュールとして利用しているMCPである酸素センサータンパク質HemATを対象とし、酸素センシングならびにシグナル伝達反応の中心的な役割を果たすHemAT/CheA/CheW複合体の構造決定に向けて、X線結晶構造解析およびクライオ電子顕微鏡による単粒子構造解析を併用して研究を進める。
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