計画研究
銅イオン(Cu+/Cu2+)に応答して反応性が上昇する新規ラベル化剤として、昨年度に引き続きキレーター部位を有する銅イオンコンディショナルプロテオミクスプローブの開発を行った。先行してChristopher Changグループ(UC Berkeley)と共同でアシルイミダゾール化学を基盤とする銅イオン応答性タンパク質修飾プローブを開発したが(J. Am. Chem. Soc., 142, 14993-15003 (2020))、このプローブはCu+/Cu2+に対する選択性が低く、銅イオン非存在下におけるバックグラウンドも高いという課題があった。そこでさらなるプローブ性能の改善を目指して銅イオンとの錯形成に伴って高反応種であるキノンメチドを生成可能なプローブを設計した。その結果、新たに開発したプローブはCu+イオンに対して選択的であり、従来のプローブよりも低濃度のCu+によって応答することがわかった。この新規プローブを銅輸送タンパク質CTR1を発現したHeLa細胞に処置したところ、CTR1発現細胞選択的にCu+イオン依存的なタンパク質ラベリング反応が進行した。また、オルガネラ選択的ホスファチジルコリン(PC)蛍光標識法をCRISPR-knockoutスクリーニングと組み合わせ、PCの細胞内存在量や局在といった表現型に摂動を与える遺伝子群を網羅的に同定したところ、予想外にヘムトランスポーターの一種がPCの生合成に関与していることが明らかとなった。さらなる解析の結果、このタンパク質は白血病細胞株K562細胞において主要なコリントランスポーターであることを発見した。
1: 当初の計画以上に進展している
銅イオン応答性タンパク質修飾プローブについては、細胞系でも使用可能なプローブの開発に成功し順調に進展している。また、本年度は別のプロジェクトで進めていたホスファチジルコリン代謝関連遺伝子の探索において、生命金属科学とも関連する予想外の発見があり、当初計画以上の進展があった。
今後は銅イオン応答性タンパク質修飾プローブを用いて銅輸送タンパク質の網羅的なインタラクトーム解析を実施し、細胞内銅輸送メカニズムの解明に取り組む。また、2021年度に発見したヘムトランスポーターを介するコリン取り込みに関してより詳細な構造解析を行い、その分子機構を明らかにする。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
Journal of the American Chemical Society
巻: 143 ページ: 4766~4774
10.1021/jacs.1c00703
Current Protocols
巻: 1 ページ: e105
10.1002/cpz1.105