研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05765
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
古川 良明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (40415287)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 金属タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞内の主要な銅タンパク質である銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ(SOD1)に着目し、特に銅動態の細胞内制御と、その破綻に伴うSOD1ミスフォールディングのメカニズムについて研究を進めている。SOD1のミスフォールディング(構造異常)は神経変性疾患の病理学的変化の一つであることから、SOD1に関する構造・機能研究を通じて、生命金属動態の破綻がもたらす疾患発症の機序を理解することを目的としている。 本年度には、異なる銅シャペロン(HAH1とCCS)の間で、亜鉛イオンを介して相互作用することを明らかにでき、その生理的意義についてはさらに検討を進めているものの、原著論文として報告することができた。また、SOD1のミスフォールディングメカニズムを解明するべく、イオンモビリティ質量分析によるコンフォメーション解析や、LA-ICP-MSを駆使した組織内金属分布解析、ミスフォールド型SOD1を特異的に認識する分子の開発などを、新学術領域内での連携研究として進めることができた。現時点で多くの連携研究が進行中であるが、5報の原著論文と1報の総説論文を報告するとともに、3件の招待講演と8件の口頭発表を行うことができた。今後は、上述の連携研究を進めて原著論文として取りまとめるとともに、バクテリアに発現する新規SOD1タンパク質の構造機能解析などにも取り組み、生命金属動態による金属タンパク質活性化のメカニズム解明を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.亜鉛イオンを介した銅シャペロン間の相互作用 SOD1に銅イオンを供給する銅シャペロンCCSのN末端に位置するドメインI(CCSdI)は、重金属結合モチーフ(CxxC)を備えたフェレドキシン様の構造(HMAドメイン)を有している。しかし、CCSdIにおけるCxxCはSOD1への銅イオン供給に関与しておらず、その機能的役割は不明である。本研究では、HMAドメイン構造を有した別の銅シャペロンHAH1が、亜鉛イオンの存在下でCCSdIと複合体を形成することを見出した。一方で、HAH1との複合体形成がCCSによるSOD1の活性化機能を左右することはなく、HAH1-CCSdI複合体の解離定数もuMレベルであったことから、細胞内における銅シャペロン間相互作用の生理的意義の解明については今後の課題として検討中である。
2.バクテリアにみられる新規の銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ SOD1はバクテリアからヒトまで様々な生物種に保存されており、活性中心として機能する銅イオンと、タンパク質構造の形成に必須の分子内ジスルフィド(S-S)結合を共通して有している。しかし、NCBIに登録されているSOD1のアミノ酸配列を精査したところ、パエニバシラス科に属するグラム陽性菌のSOD1(PaSOD)はシステイン残基を持たないことがわかった。そこで、P. lautusからPaSODをクローニングし、リコンビナントPaSODについて構造・機能解析を進めたところ、新規のフォールドを有したドメインを通じてホモ二量体を形成しており、S-S結合の代わりに疎水性相互作用を通じて、酵素活性の発揮に必要な立体構造を構築していることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
新学術領域内において現在進行中の連携研究を継続することで、生命金属動態の破綻がSOD1のミスフォールディングに果たす役割について明らかにする。特に、ヒト神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)のみならず、イヌの疾患である変性性脊髄症(DM)にも焦点をあて、生命金属動態という視点から、両疾患におけるSOD1の病理学的役割を解明する。
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