研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05767
|
研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
保住 功 岐阜薬科大学, 薬学部, 特命教授 (20242430)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
|
キーワード | 生命金属 / 神経変性疾患 / 筋萎縮性側索硬化症 / 特発性基底核石灰化症 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
全ての生物、細胞にとって必須の生命金属は、その種類や濃度は恒常性が維持されており、その破綻は神経変性疾患を始め、様々な疾患を発症させる要因となる。 筋萎縮性側索硬化症(ALS)はZnホメオスタシス異常の視点から解析を行った。我々は乳児歯髄幹細胞培養上清(SHED-CM)を用いて、SOD1変異遺伝子を導入したN2a細胞で、細胞内凝集体の蓄積、SOD1 WT細胞と比較して生存率低下が確認できた。このモデル細胞にSHED-CMを処置し、凝集体形成の抑制、生存率の回復が確認できた。その有効成分として、阻害実験からHSP70、IGF1、成分分析からZnが重要であると考えられた。さらに、患者のiPS細胞を用いて、生存率の回復が確認でき、SHED-CMはALSの最も有望な治療薬と考えられた。 脳内石灰化症はリン(Pi)ホメオスタシス異常の視点から解析を行った。特発性基底核石灰化症(IBGC)の主たる原因遺伝子としてSLC20A2とPDGFBの顕性遺伝子変異が報告されている。脳のリン酸輸送を担う主要なリン酸輸送体はⅢ型リン酸輸送体のPiT1 (SLC20A1遺伝子)、PiT2 (SLC20A2遺伝子)が同定されている。また、PDGF-BBは血管平滑筋細胞でPiT1の発現を誘導することが報告されている。検索では、リコンビナントタンパク質PDGF-BBは、SH-SY5Y細胞においてもリン酸輸送活性を増大させ、リン酸輸送体PiT1の遺伝子発現には影響しないものの、細胞膜移行を促進することで、リン酸輸送活性を増大させることを明らかにした。さらにPDGF-BBはSLC20A2ノックダウンによる細胞脆弱性を改善することで、神経細胞保護的な役割も有することが示唆された。今回の検討からもPBGF-BBはIBGCの最も有望な治療薬と考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALSを対象に種々の生命金属を含むSHED-CMを用いた治療法開発を進めた。SOD1G85R、SOD1G93A遺伝子を導入したN2a細胞で用いて評価系を確立し、SHED-CMを用いて、凝集体形成の抑制、80%に近い生存率の回復が確認できた。酸化ストレス、小胞体ストレスが抑制され、成分分析からZnが重要であると考えられた。さらに、ヒト疾患特異的iPS細胞を用いて検討を行い、生存率の回復が確認できた。以上、SHED-CMはALSに対する有望な治療薬と考えられた。この一連の研究は英文誌Front Pharmacolに報告した。 IBGCの主たる原因遺伝子としてSLC20A2とPDGFBの顕性遺伝子変異が報告されている。脳のリン酸輸送を担う主要なリン酸輸送体はⅢ型リン酸輸送体のPiT1 (SLC20A1遺伝子)、PiT2 (SLC20A2遺伝子)が同定されている。今回、遺伝子変異を導入したSH-SY5Y細胞系を確立し、PDGF-BBがリン酸輸送活性を増大させ、リン酸輸送体PiT1の遺伝子発現には影響しないものの、細胞膜移行を促進することで、リン酸輸送活性を増大させることを明らかにした。さらにPDGF-BBはSLC20A2ノックダウンによる細胞脆弱性を改善することで、神経細胞保護的な役割も有することを明らかにした。以上、PBGF-BBはIBGCの最も有力な治療薬候補と考えられ、英文誌BBRCに報告した。 胎生期低濃度重金属(Hg)負荷による胎児マウスの神経機能障害としてエピジェネティクスな機序を明らかにし、英文誌Arch Toxicolに報告した。 本領域内の平山との連携研究で、生細胞でlabile hemeを高感度、特異的に蛍光イメージできる低分子probe, H-FluNoxを開発し、英文誌J Am Chem Socに報告した。
|
今後の研究の推進方策 |
各種培養細胞や疾患特異的ヒトiPS細胞を用いて、生命金属が神経変性疾患の発症や進展に及ぼす影響を評価できる実験系を構築する。特にALS、IBGCなどの神経変性疾患について病態解明を行い、創薬ターゲット、シーズの探索を目指す。 ① 各種の培養細胞を利用し、一過性、もしくは、誘導性に(ウイルスベクターやCRISPR-Cas9を利用)、原因遺伝子を発現する実験系を作製する。作製した実験系に対して、ターゲットする生命金属負荷を施し、変動する標的因子について、DNAマイクロアレイやRNA-seqによる網羅的遺伝子解析およびプロテオミクス解析によって同定する。② 疾患特異的なiPS細胞を運動神経細胞、大脳皮質神経細胞、血管内皮細胞内皮などに分化誘導する。各分化させた細胞を用いて、①に記載した実験・解析を進める。③ 変異SOD1を発現するALSのモデル細胞、ヒトALS患者由来のiPS細胞を用いることで、SHED-CMが細胞死を抑制することを明らかにしたが、その詳細なメカニズムを明らかにする。④ IBGC患者の遺伝子解析、画像解析、質的研究など総合的解析を行う。 ⑤ IBGC、ALS患者由来神経細胞内のPi、Zn等の生命金属の動態解明: SPring-8を活用し、IBGC、ALS患者由来神経細胞内の生命金属の動態解明を行う。(国立国際医療研究 センター 志村まり先生との共同研究)⑥ 脳内石灰化部位の成分解析:新潟大脳研、愛知医科大加齢研、さいがた医療センターなどで得られた脳内石灰部位の金属、タンパク質、ペプチドなどの網羅的な分析を領域内連携の東大 鈴木道生准教授と解析を行い、その特異性、役割を検討する。 ⑦ 培養細胞やモデルマウスを用い、胎児期における低濃度のMgなどの生命金属の曝露を行い、DNAメチル化を中心に、生後の神経変性疾患への影響として、エピジェネティクスな機序を解析をする。
|