研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05768
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
神戸 大朋 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (90303875)
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研究分担者 |
杉本 宏 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 専任研究員 (90344043)
宗兼 将之 神戸薬科大学, 薬学部, 特任助教 (80804806)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 亜鉛輸送体 / メタレーション / 生命金属 / 有害金属 / 体内動態 |
研究実績の概要 |
ZNTタンパク質は、亜鉛エクスポーターファミリーとして機能するが、そのメンバーのほとんどが細胞内小器官内腔への亜鉛輸送に機能している。唯一、ZNT1だけが細胞膜で発現し、細胞外への亜鉛排出を担っている。ZNT1は、1995年に哺乳類で初めての亜鉛トランスポーターとして同定されたが、それから20年以上経った現在まで、その発現制御機構の詳細は不明であった。今回、ZNT1を特異的に認識するモノクローナル抗体を作成して解析を実施し、ZNT1が、亜鉛過剰時には積極的に細胞膜に留まる一方、亜鉛欠乏時に速やかにエンドサイトーシスされて細胞内に取り込まれ、細胞内分解経路で分解されることを明らかにした。この亜鉛応答性の発現制御は、エクスポーターとしてのZNT1の生理的意義に合致しており、細胞・個体レベルでのZNT1の機能の重要性を明示する結果となる。 また、細胞内に取り込まれた亜鉛は、ZNT1以外のZNTタンパク質を介して、様々な小器官内腔に輸送される。早期分泌経路には、ZNT5-ZNT6ヘテロ二量体とZNT7ホモ二量体が機能し、分泌型亜鉛要求性酵素の活性化に必要な亜鉛を供給している。このような酵素の一つにアルカリフォスファターゼ(ALP)があり、これまでの解析で、ZNT5とZNT7を欠損させたニワトリ細胞では、ALPの酵素活性が消失することを示してきた。今回、この現象がヒト細胞でも同様に生じることを確認し、さらにZNT5とZNT7欠損させた細胞において、実際にALPへのメタレーションが阻害され、亜鉛が配位していないアポ型の状態にあることを明らかにした。さらに、ZNT5が存在しないヒト細胞では、ZNT6が正しくゴルジ体に局在できず、ZNT5-ZNT6ヘテロ二量体の形成が、その局在制御に必須となることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述のように、ZNTタンパク質の機能において、これまで未解明だった重要な知見を明らかにすることができた。これら成果は、タンパク質が生命金属によってどのような制御を受けるか理解する上で重要な知見となる。また、【研究項目A03】において、生命金属(Zn/Fe/Cu)の輸送体の欠損株やFLp-In T-Rexシステムを用いて生命金属輸送体の発現をオンオフできるシスステムを組み込んだ細胞の樹立が順調に進んでいる。したがって、当初予定していた計画以上に順調に進展したと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
【生命金属科学基盤構築】 1. アルカリフォスファターゼ(ALP)以外の亜鉛要求性酵素のメタレーション過程を明らかにし、ZNT5-ZNT6ヘテロ二量体とZNT7ホモ二量体を介した細胞内タンパク質成熟化過程の詳細を明らかにする。そのため、インターアクトーム解析やコンディショナルプロテオミクス解析を用いて、ZNT輸送体により輸送されたZnが受け渡される分子を同定し、Zn輸送体に相互作用しメタレーションに機能する候補タンパク質を特定する。 2. エクト型の亜鉛酵素には、がんの増殖に密接に関連する酵素が複数あるが、これら酵素の活性は、ZNT輸送体を欠損させた細胞では消失すると考えられる。ZNT輸送体を欠損させた複数のがん細胞株をヌードマウスに移植し、ZNT輸送体が輸送したZnが、がん細胞の増殖にどのように影響を与えるのか解析す(Xenograft)。1の解析に関連させて、Zn輸送体により活性制御されるZn酵素の活性について評価し、Znメタレーションの過程の生理的意義に関する解析を進める。
【研究項目A03】有害金属の生体内動態と作用機序 昨年度に引き続き、ヒトHAP1細胞を用いて生命金属(Zn/Fe/Cu)の輸送体の欠損株および複数の輸送体を同時に欠損させた多重欠損株を樹立する。また、FLp-In T-Rexシステムを用いて生命金属輸送体の発現をオンオフできるシステムを組み込んだ細胞を樹立し、各金属輸送体の発現を変化させたときの細胞の応答を解析する。また、樹立株に有害金属(Mn/Cdなど)を作用させ、有害金属の取り込みに関わる輸送体と関わらない輸送体の分類を進める。
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