研究実績の概要 |
本研究は、in vivoとin vitroの両面から、近位尿細管における有害金属の輸送と毒性発現の機構を明らかにすることを目指している。 本年度は、特にCdについて解析した。培養細胞を用い、in vitroで尿細管再吸収障害を評価する系を立ち上げ、近位尿細管で再吸収されるAlbumin(Alb), transferrin(Tf), β2MG, metallothionein (MT) のエンドサイトーシスに対するCdの影響を評価した。マウスの近位尿細管のS1, S2部位由来の不死化細胞を用いて、エンドサイトーシスによるタンパク質の細胞内取り込みを計測する系を樹立した。S1, S2細胞をCdに曝露し、蛍光標識した様々なタンパク質のエンドサイトーシス効率の変化を調べた結果、FITC-β2MGとFITC-MTのS2細胞への取り込み効率が30~50%にまで低下した。また、L-FABPは腎臓の細胞障害に応じて尿中への分泌量が増加し、再吸収障害も起こす可能性ある。ヒト近位尿細管上皮由来不死化細胞 (hRPTEC)を用いて、 L-FABPの取り込み効率に対するCd曝露の影響を調べた結果、L-FABPの取り込み効率がCd曝露によって低下することはなかった。一方、in vivoではC57Bl/6マウスに0, 20, 50 ppmのCdを4ヶ月間摂取させ、Cd濃度と分布の測定、及び、腎障害マーカーの免疫染色を行った。腎臓のHE染色により明確な腎細胞死は認められなかった。また、LA-ICP-MSによる元素イメージングにより、Cdの分布を調べた結果、Cdは腎皮質への分布を示した。Kim-1およびAIMの免疫染色を行った結果、Cdの曝露濃度が高いほど、強い染色が認められた。また、腎臓におけるAIMのmRNAレベルは、Cd曝露によってほとんど上昇していなかった。よって、免疫染色で検出されたAIMは腎臓以外の組織に由来すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はCdの腎障害について輸送や毒性発現機構について解析した。Cdを用いた実験については近位尿細管におけるタンパク質の再吸収効率を測定する系を立ち上げ、Cdによる影響を評価できた。しかし、生体内ではCdはmetallothionein(MT)と結合した形態で存在すると考えられる。Recombinant MTの精製を行っているが、非常に酸化されやすいため大腸菌を用いた系では成功しなかった。現在マウスの肝臓からの精製を試みている。MT精製に成功すれば、Cd-MTの輸送および毒性発現機構についても解析していく。 またCdによる再吸収障害の機構については検討を開始したが、明らかにできていない。今後、Cdがどのようにして近位尿細管の再吸収効率を低下させるかを明らかにする。 In vivoでは、マウスに4か月Cdを飲水投与し、LA-ICP-MSを用いた元素イメージングにより組織内Cd分布を解析し、Cdの局在について明らかにできた。しかし、まだN数がまだ少ないことから今後回数を重ねて解析していかなければならない。Cd曝露によるCd以外の生命金属の局在の変化については、Mn, Zn, Cuなどについてイメージングを行うことができた。しかし、これらの定量性についてはまだまだ検討が必要である。LA-ICP-MSでCdの局在を調べた連続切片において腎障害マーカーの免疫染色により、腎障害マーカーのKim-1およびKim-1との関連性が注目されているAIMのCd曝露による誘導が確認できた。この結果は、まだ予備的知見であるため、今後、さらに検討し、近位尿細管のどこにKim-1およびAIMが局在するかについて検討し、さらに長期の6ヵ月から1年投与群についても変化を解析していく予定である。
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