研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05770
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
藤代 瞳 徳島文理大学, 薬学部, 講師 (10389182)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 有害金属 / 生命金属 / 腎障害 / 近位尿細管 / 輸送 / 変異 / SNP / ZIP8 |
研究実績の概要 |
私たちは、有害金属の輸送と毒性の関係を明らかにするため、有害金属が引き起こす腎障害機構とその攪乱作用の解明を目指している。 短期間でCdによる腎障害を起こすモデルとして、1) metallothionein(MT)ノックアウトマウスにCdCl2を投与、2)Cd-MT複合体を直接マウスに投与、の2系で腎障害誘発機構の解明を目指した。いずれのモデルでも腎障害が誘発できたが、特にCd-MT複合体によるCd腎障害モデルにおいて、腎臓の病理変化、BUNなど様々なマーカーの上昇により腎障害が確認された。LA-ICP-MSを用いて、Cd-MT投与後の腎臓でのCdの局在を解析した結果、皮質と髄質の境界領域(S3領域付近)にもCdの局在が観察された。今後、血清CaおよびPi濃度などをこのモデルを用いて検討する予定である。 シスプラチン(CDDP)による腎障害について、マウス近位尿細管S1, S2, S3領域由来不死化細胞を用いた検討により、CDDPの細胞毒性がS3細胞で最も強く現れることを見出したこの原因は、細胞へのPtの取り込み効率および蓄積量では説明できなかった。また、CDDPは短時間で細胞に取り込まれ、速やかに排泄されることが分かった。細胞内Pt取り込み量が高値を示すのは曝露後15分で、たった15分間のCDDP曝露によっても、S3細胞の細胞毒性が最も高かった。よって、CDDPが細胞内に取り込まれた後の初期に起こる何らかの変化がS3細胞特異的な細胞毒性に関与している可能性が示唆された。 ZnやCdの輸送体として知られるZIP8のSNP(rs13107325)が統合失調症、クローン病など様々な疾患と関与することが報告されている。rs13107325はアミノ酸変異(A391T)を生じるため、この変異がMn輸送に及ぼす影響を調べたが、Mn取り込みにはあまり影響を与えないことが示唆された。現在、ZIP8の金属輸送に重要な金属結合モチーフにおける各アミノ酸の金属輸送活性への関与について検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カドミウムによる腎障害モデルはこれまでよいモデルがなかった。そこで、過去に使用されていたCd- metallothionein (MT)複合体投与による腎障害モデルと、MTノックアウトマウスの腎障害モデルを詳しく再検証した。Cd-MT複合体の単回投与でも腎障害が発症するモデルが得られたため、Cdによる近位尿細管再吸収障害機構の解明やファンコニー症候群発症メカニズムの解明のため、もう少し腎障害を誘発できる投与期間や濃度を検証し、メカニズム解明につなげたい。 シスプラチンによる腎障害については、近位尿細管のS3領域特異的な腎障害の機構を解析しているが、15分という非常に短い時間の曝露でもS3特異的な障害が起こることが明らかにした点が最も注目される。 CDDPの動態にはグルタチオン(GSH)抱合が重要な役割を果たす可能性がある。CDDPのGSH抱合体の輸送および動態を解析するため、HPLC-ICP-MSおよび放射光施設SPring-8でのXAFS測定によってCDDPのGSH抱合体の調製と検出を試みた。Pt近傍の配位子との距離などの解析によりCDDPとは異なる化合物が確認できた。しかし、この化合物の同定が困難である。今後、細胞内でのCDDPの化学形態変化、および排泄された際の形態解析などについてはさらに検討を行い、CDDPの形態変化がS3領域特異的な毒性発現に関与している可能性を検討したい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度確率したマウスを用いたCdによる腎障害モデルについて、LA-ICP-MSを用いた元素イメージングや、各腎障害による変化の経時的な変化を解析し、毒性との関係を明らかにする。また、さらにもう少し強い腎障害モデルを作成し、Cdによるカルシウム、リン代謝への影響を解析できるモデルも構築する。 CDDPによる腎障害機構の解明については、動物を用いた検討を開始する。細胞内の形態変化についても検討を進めるが、動物モデルを用いて、尿中代謝物を解析する。近位尿細管のS1, S2, S3細胞を活用し、CDDPに結合するたんぱく質を比較し、毒性に影響を与える因子を探索する。近年注目されるミトコンドリア融合に関わる因子についても変化を解析し、CDDPによる腎障害誘発機構を明らかにしたい。 Cd, Mn, Znの輸送体として知られるZIP8のMn代謝における役割について検討しているが、Znしか輸送しない多くの他のZIPは、Zn結合サイトとしてTMD5にHHXPHEモチーフを有するが、Zn以外にMn、Cdも輸送可能なZIP8、ZIP14はHEXPHEとなっていることに着目し、H-HペアがZnのみ、E-HペアがZnだけでなくMn、Cdにも親和性を示すのではないかと予測した。そこで、⊿ZIP8 DT40細胞を用いて野生型(E343)、変異型(E343H)、(E343A)発現細胞を作成し、Mn、Cd、Znの輸送活性について検討していく。
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