研究実績の概要 |
シスプラチン(CDDP)による近位尿細管S3領域特異的障害機構を解明するため、マウス近位尿細管S1, S2, S3領域由来不死化細胞を用いて検討した。S3細胞のCDDP高感受性の原因を明らかにするため、活性酸素種(ROS)の関与を検討した。CDDPを添加後の細胞内ROS産生量は、S1, S2細胞と比べてS3細胞で顕著に高かった。また、抗酸化剤であるTroloxによりS3細胞におけるCDDPによる細胞毒性が抑制されたため、S3細胞のCDDP高感受性にROSが関与していることが示唆された。S3細胞で、細胞内遊離Fe2+量がS1, S2細胞よりも高値を示し、フェントン反応を介して酸化力の高いヒドロキシラジカルを産生しやすい環境にあることがわかった。CDDP曝露後の抗酸化タンパク質のTrx, TrxR発現量が、S3細胞においてのみ低下した。一方、CDDP曝露後の過酸化脂質量を調べた結果、S3細胞の過酸化脂質量が著しく高かった。以上の結果から、CDDPに対するS3細胞高感受性には、ROS産生およびROSによる過酸化脂質の酸化が関与し、S3細胞はCDDPによるフェロトーシスが誘発されやすい環境であることが示唆された。 Mn輸送体のZIP8の役割を検討した。Znしか輸送しない多くのZIPは、Zn結合サイトとしてTMD5にHHXPHEモチーフを有するが、Zn以外にMn、Cdも輸送可能なZIP8、ZIP14はHEXPHEとなっていることに着目し、H-HペアがZnのみ、E-HペアがZnだけでなくMn、Cdにも親和性を示すのではないかと予測した。そこで、MDCK細胞を用いて野生型hZIP8(E343),変異型(E343H),(E343A)発現細胞を作成し、Mn、Cd、Zn取り込み効率を検討した結果、Mn、Cd、Znの取り込み効率がどちらの変異体でも顕著に低下することを明らかにした。
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