研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05774
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
明石 知子 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (10280728)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | タンパク質 / ネイティブ質量分析 / 複合体 / 金属イオン / 一細胞分析 |
研究実績の概要 |
1.膜タンパク質のネイティブMS 膜タンパク質の解析に微量試料で迅速に分析できるネイティブMSによるプラットフォームの構築を目指し、亜鉛イオン結合膜内切断プロテアーゼRsePについて、以下の検討を行った。大腸菌、好熱菌および海洋性細菌由来の計3種のRsePオルソログについて、インタクトの状態および阻害剤Batimastatとの複合体のネイティブMSによる観測を試みた。その結果、ネイティブMS測定の際の界面活性剤をn-Dodecyl-N,N-dimethylamine-N-oxide (LDAO)とすることで、すべてのオルソログについて複合体の観測が問題なく行え、構造特性や阻害剤との複合体の安定性の違い、特に活性中心に存在する亜鉛イオンの結合安定性の差に関する重要な知見が得られた。 2. 1細胞ネイティブMS法の開発 顕微鏡で観察しながらマニピュレータを用いて、赤血球1個を壊さずにサンプリングし、直接ネイティブMSの測定を行う諸条件を検討・最適化した結果、4分子のヘムを結合したヘモグロビン(Hb)4量体を観測することに世界で初めて成功した。 3. 神経疾患に関わるヒトSOD1中の金属イオン存在状態のネイティブMSによる定量の検討 SOD1の酵素活性には金属イオンとの結合親和性が大きく関係することがわかっている。金属イオンの結合状態を定量的に解析する目的で、金属イオンが結合していないアポ型のSOD1に対して、Cu2+あるいはZn2+を添加した後に、SOD1における金属イオンの結合状態をネイティブMSにより検討した。その結果、ジスルフィド結合が還元されていると、Cu2+の結合サイトにZn2+が結合することはないが、ジスルフィド結合の形成後には、SOD1ホモ2量体に最大5個のZn2+が結合することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
国内では未だ報告のない膜タンパク質のネイティブ質量分析の技術基盤を整えることができ、膜内プロテアーゼの特性解析を展開できたこと、一細胞ネイティブ質量分析に世界で初めて成功したこと、領域内の共同研究を進めてSOD1の二量体化と金属の結合のタイミングがSOD1の構造に影響することなどを見出した。特に一細胞ネイティブ質量分析でインタクトのヘモグロビンの観測に成功したことはインパクトが大きい成果である。
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今後の研究の推進方策 |
膜タンパク質の中でも構造が特に不安定なGPCRの一つ、b2ARについて、薬剤の複合体の観測をネイティブ質量分析を試みる。さらにb2ARではその活性化に亜鉛イオンが関与しているという報告があるので、亜鉛イオンの結合状態の解析を行う。 これまで見出されているSOD1の変異体には病態との関連が示されているものもあることから、野生型と変異体のヘテロ二量体の構造をイオンモビリティ質量分析で解析する。 亜鉛を有するアセチル基転移酵素ヒトSirtuinについて、ヒト培養細胞で発現させたのち、未精製の状態でネイティブ質量分析による薬剤との複合体の観測を検討し、薬剤スクリーニングのためのプラットフォームの構築を試みる。
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