研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05775
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
武田 志乃 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, グループリーダー(定常) (00272203)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 量子ビーム / ケミカルイメージング / バイオイメージング / 分布 / 局在 / 化学状態分析 / ウラン / 腎臓 |
研究実績の概要 |
組織や細胞・生体分子等を破壊・溶解して元素分析を行う従来の金属動態解析手法では、生体内での状態を反映していない可能性や金属動態と組織・細胞構造との対応ができず生命金属の理解が進まないことが指摘されてきた。本申請研究では、生命金属動態をin situで理解する研究戦術として、量子ナノビームを利用したバイオ・ケミカルイメージングの確立と細胞内金属動態特性の構築に取り組む。すなわち、同一試料から無処置・無染色で微細な組織・細胞構造あるいは細胞小器官や生体分子分布を把握するバイオイメージングと元素分布やその化学形変化をケミカルイメージングとして取得し、ナノレベルでの細胞構造と対応させた金属動態から局在・濃集の元素特性と形成機序の解明を目指す。 具体的には、薄切組織試料等の生体試料に対し組織微細構造特有の自家蛍光や反射光を高分解能で分離したハイパースペクトル等を利用しバイオイメージングを得る。同一試料について放射光やプロトンのナノビームを用い、非破壊分析であるSR-XRF、PIXE、XAFSを組み合わせて元素分布・局在・化学形情報を取得しケミカルイメージングとする。両者を対応させることで生体内環境を限りなく保持した生命金属動態を解析する。令和元年度はこれまでミクロンレベルで組織局在・濃集様態を把握している腎臓ウラン動物モデルを用いて、微細な組織構造や元素局在部を無処置・無染色で把握する試みとして、自家蛍光を利用したバイオイメージングに取り組んだ。後半はハイパースペクトルカメラを導入、腎臓組織に対するハイパー画像基礎パラメータの取得を行った。また、ケミカルイメージングのための2次元XAFSの空間位置精度の関する評価・解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではハイパースペクトルによるバイオイメージングと量子ビームを用いた非破壊元素分析によるケミカルイメージングにより、in situで生命金属動態を解析する手法を確立し生命金属の局在・濃集の元素特性とその形成機序の解明に取り組む。令和元年度はバイオイメージングの基礎検討を行うとともに、ケミカルイメージングについてはナノ計測用分析標準の検討ならびに化学形解析の2次元計測における空間位置精度の評価・解析を進めた。 1)バイオイメージング:ラット腎臓凍結切片試料を用い、自家蛍光を利用したネフロン構造の把握を試みた。比較的ブロードな蛍光フィルター(励起波長520-550 nm、蛍光波長580 nm以上等)で糸球体や尿細管の判別が可能であることがわかった。また、ウランばく露ラット腎臓で特徴的なリン局在部に対応した自家蛍光像も得られ、元素局在部の特定手法としての可能性が示された。またハイパースペクトルカメラを導入、腎臓組織に対するハイパー画像基礎パラメータの取得を行った。 2)ナノ計測基盤整備:ナノ計測用分析標準の開発を進めた。これまで確立したポリビニルアルコールを用いた薄切分析標準の作製手法に準じ、混入元素の形状の検討を行った。 3)ケミカルイメージング:空間分解能1 μm × 1 μm~5 μm × 5 μmの条件下における2次元化学状態分析(2D-XAFS)の空間位置精度の解析・評価を行った。垂直方向の位置ずれについてナノ計測を進める上で改良が必要との評価を得た。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度はハイパースペクトルを用いたバイオイメージング手法の検討を中心に行う。ケミカルイメージングについては、元素分布・局在解析のナノ計測の基礎検討に取り組むとともに、化学形分別イメージングの酸化状態および空間精度評価を検討する。 1)バイオイメージング手法の検討:無処置・無染色で組織微細構造を把握する試みとして、腎臓等の組織試料を対象に組織特有の反射光を利用したハイパースペクトル波長の抽出を行う。領域内の徳島文理大・藤代と連携し、近位尿細管のセグメント領域分別の高精度マーカーの抽出を行う。組織中に局在する生命金属特有のハイパースペクトルについては、SR-XRF・XAFSによる元素同定や化学状態分析により波長精査する。 2)金属分布・局在解析:引き続き、独自に開発した微小ビーム分析用分析標準のナノ計測適正等を検討する。必要に応じ、ナノレベルの局所定量のための分析標準開発に取り組む。腎臓内の組織局在・濃集様態がミクロンレベルで明らかとなっているウランを投与したラット腎臓組織等を対象としてSR-XRFのナノ計測に取り組む。3次元計測についても基礎検討を進める。 3) 化学形分別イメージング:SR-XRFによる元素分布解析試料と同一試料に対し2次元XAFSを行い、尿細管上皮細胞におけるウラン化学状態分析を行う。2次元XAFSの位置精度を検証するとともに、尿細管構造との対応を行う。X線吸収スペクトルを構築し、価数変化とケミカルシフトとの関係を明らかにする。化学形変化をケミカルイメージングとして可視化するための解析手法についても検討・改良を行う。ウランに対しては化学状態分析に必要な化学形の異なる市販の化合物が無いため、適宜ウラン標準物質の合成を行う。
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