研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
19H05777
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩田 想 京都大学, 医学研究科, 教授 (60452330)
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研究分担者 |
野村 紀通 京都大学, 医学研究科, 准教授 (10314246)
近藤 美欧 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (20619168)
山下 恵太郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 客員共同研究員 (20721690) [辞退]
草木迫 司 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80815316)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | チャネルロドプシン / 光遺伝学 / X線自由電子レーザー / 時分割X線結晶構造解析 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
「光」は空間分布と時間の制御が比較的容易である上に、波長を自在に変えられるという特性を有する。したがって、光動作タンパク質はフェムト秒パルスレーザーを光源とするポンプ・プローブ法による時分割構造機能解析に好適な研究対象である。本研究ではまず、光応答性膜イオンチャネル(チャネルロドプシン)C1C2を対象としてフェムト秒パルスレーザーを光源とするポンプ・プローブ法による時分割構造計測(TR-SFX)を行い、レチナールの光異性化反応に伴うタンパク質分子骨格の動作原理を解明した。C1C2の結晶化に関しては、微結晶になるような新たな結晶化条件を探索する必要があった。約10,000条件を検討し、0.5%や1 mM単位での細かい検討を重ねて、C1C2の微結晶を得ることに成功した。X線自由電子レーザー施設SACLAにてTR-SFX実験を行い、励起光照射後50 μs, 1 ms後の構造変化を2.8 Å分解能で得ることに成功した。得られた構造を解析すると、50 μsでは異性化したATRが捻じれ、隣接するアミノ酸残基がATRにより押される動きが観測された。1 msではこれらの構造変化に加え、ATRが結合しているTMと押されたアミノ酸残基が属するTMの動きも観測された。これらのTMはイオンチャネルのゲート形成に関与しており、これらのTMが動くことでゲートが開き、開状態になることが示唆された。得られた構造変化の情報に基づき、TMの動きを阻害するような変異体を作成し、イオンチャネルとしての機能が変化するか実験を行った。その結果、チャネルの開閉時間が変化することが確認された。これらの結果から、C1C2は異性化したATRによるアミノ酸残基、ヘリックスの構造変化により基底状態から開状態に遷移することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TR-SFXのモデル系として光応答性膜イオンチャネル(チャネルロドプシン)C1C2を対象として時分割構造計測を行い、レチナールの光異性化反応に伴うタンパク質分子骨格の動作原理が解明できた。この成果は国際的にも評価が高い学術誌であるeLife誌にて発表できたため、本年度の目標は概ね達成できていると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) SFX時分割構造解析に使用可能な人工金属錯体触媒分子を含む微結晶の作製:新学術分野開拓の意欲的な試みとして、光応答性金属錯体触媒―抗体複合体化による人工機能性分子の創出と時分割構造解析を実施する。金属錯体触媒の反応過程をSFX時分割構造解析に供するため、光増感剤と抗体タンパク質との複合体結晶を作製し、光刺激による反応起点の同期、ならびに溶媒含量が高い結晶中での反応進行が可能な実験系を新規に確立する。 (2)光で機能制御が可能な高機能人工タンパク質の合理的創出:上記の光動作タンパク質の非平衡動的構造基盤に基づき、細胞内シグナル伝達の人為制御や神経生理の非侵襲的解析に応用可能な高機能分子デバイスを合理的に創出する。本研究期間ではそのモデル系として、チャネルロドプシンC1C2のイオン選択性の改変、CRY2-蛍光タンパク質融合型二光子励起対応の細胞内シグナル伝達光操作ツール、Ace2N改変型FRET膜電位プローブをSFX時分割構造知見に基づき設計・高機能化する。 (3)光で反応制御が可能な人工金属錯体触媒分子のSFX時分割構造解析:(1)で作製した光応答性の金属錯体触媒―抗体―光増感剤複合体の微結晶を用いてSFX時分割結晶構造解析を実施する。反応中間体の構造を決定し、中間体の電子構造と触媒活性の間の相関について包括的に評価する。これらの研究を通じ、触媒活性を左右する決定的な因子を特定し、戦略的に人工触媒分子を構築するための革新的な原理を解明する。
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