研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
19H05779
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
朴 三用 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (20291932)
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研究分担者 |
梅名 泰史 自治医科大学, 医学部, ポスト・ドクター (10468267)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | cGMP光産生酵素 / 光反応酵素 / X線自由電子レーザー |
研究実績の概要 |
光によって感応、応答するタンパク質には、動物や植物などに広く分布する発色団を含み、生命維持に関与するなど重要な役割を果たすものが知られる。近年では、こうした光感受性タンパク質を利用して、細胞などの光操作する技術に応用され、これまでに多くの生理現象の解明に利用されてきた。中でも、光遺伝学は、細胞や組織の生理機能を明らかにするための非常に強力な研究手法であると同時に、疾病の治療への応用の観点からも注目されている。光活性化アデニル酸シクラーゼPACは、動物、植物で普遍的な情報伝達物質(cAMP、 cGMP)の生産を光で制御できる生体タンパク質で、生体内での光スイッチとして医学的な応用が期待される分子である。PACは、最初にミドリムシから発見され以後、複数の原核生物からも相同遺伝子が見出されていたが、いずれも原子レベルでの構造・機能解明までには至ってなかったが申請者によって、藍藻由来の光活性化アデニル酸シクラーゼ(OaPAC)における初めて原子レベルでの構造・機能解明に成功した。本研究では解明されたOaPAC光活性化メカニズムの構造科学的解明を基に、細胞内でのセカンドメッセンジャー光制御への光遺伝学の展開や、PACの酵素ドメイン改変によるcGMP光産生酵素の創出、更には脳病変発生などにおける発生学的疾病の機構解明と治療を光制御医学ツールとして基礎医学的研究を目指す。本年度ではOaPACに対して微結晶調製を大量作製し、XFEL(X線自由電子レーザー)を利用し、光感受性タンパク質の多様な光応答機構の解明を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光感受性アデニル酸シクラーゼ(OaPAC)については単結晶から得られた静的な構造がすでに明らかであったので、まずこの結晶化条件を微小結晶調製用に改良することを試みた。しかしながらもともと結晶化自体の再現性はある程度高いものの、回折能のある結晶出現の頻度が低く、その歩留まりは10%程度であった。微小結晶となるとさらに低い再現性の中で回折能のある微小結晶の大量調製方法を探る困難があったため、OaPACタンパク質調製方法(プラスミドコンストラクティングや発現条件)の検討を行なった。また、回折能がある結晶化どうかは見た目では判断できないため、単結晶のX線結晶構造解析で用いる大きさの結晶の回折能チェックを実験室系X線回折装置で実施し、それを微小結晶調製にフィードバックすることで品質管理を随時行いながら微小結晶の大量調製方法の検討を行なった。その結果、タンパク質濃度20 mg/ml、リガンドとしてATPアナログであるApCpp存在下でオイルバッチ方により、回折能のある微小結晶を調製することが可能となった。得られた微小結晶懸濁液の単位体積あたりの結晶の数は2×108個/ml程度であり、SACLAにおける回折実験が可能なレベルで微小結晶サンプルを調製することに成功した。微結晶は細長い米粒状の形状をしており、各結晶の長軸の長さは平均27ミクロン程度であった。この微結晶サンプルをグリースと混合し、SACLAのXFEL(X線自由電子レーザー)を利用したSFX(serial femtosecond crystallography)測定を行なったところ、2.4Aの分解能で構造解析を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
PACは日本の研究グループによって発見されたタンパク質で、青光により活性化アデニル酸シクラーゼcAMP分子を量産する酵素として、特性解明や生物機能光制御への展開も提唱・実行してきた(Nature, 2002)。本申請者は、PACの相同遺伝子であるOaPACの立体構造解明に世界初めて成功し、光活性化機構に関する構造科学的な研究は本研究グループが先駆的に積み上げてきた。神経興奮の光制御、いわゆる「光遺伝学、optogenetics」が急速に普及し、OaPACによるcAMPを介する生体機能光制御も概念上同類とみなされつつあるが、はるかに広範で多彩な生命活動の光制御につながり、血管新生・脳病変原生・神経回路ネットワーキング・記憶などの光発生医学現象の制御・解明・治療・創薬スクリーニングという広大な新分野の開拓を先導するものであり、かつ独創的な新領域の研究分野であると言える。 このような目標に向け、今後、X線自由電子レーザーを利用した高速分子動画法により、光感受性タンパク質の多様な光応答機構の解明を目指している。
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