研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
19H05780
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
永野 真吾 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (60286440)
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研究分担者 |
中津 亨 和歌山県立医科大学, 薬学部, 教授 (50293949)
溝端 栄一 大阪大学, 大学院工学研究科, 講師 (90571183)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 高速分子動画 / ディールスアルダー反応 / 発光タンパク質 / Rubisco |
研究実績の概要 |
代表の永野らは,岐阜薬科大学の永澤教授のグループによって合成された基質をディールスアルダー反応酵素Fsa2の微結晶と混合する実験を行ったが,基質の結合や酵素反応を確認することはできなかった。また,2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼのタウリン水酸化酵素TauDでは,基質が結合した金属非結合型TauD微結晶と硫酸鉄(II)溶液を混合することでTauDの活性中心の非ヘム鉄を再構成できることを確認した。さらに,基質が結合した金属非結合型TauD微結晶を酸素飽和溶液に懸濁し,これと硫酸鉄(II)を混合する実験を行ったところ,基質結合部位のタウリンの一部が生成物のアセトアルデヒドと置換されていること,すなわち微結晶中で酵素反応が進行したと推定される結果が得られた。 分担者の中津らは,イクオリン微結晶懸濁溶液とカルシウム溶液を混合して反応を開始したのち、異なる反応時間で液体窒素につけることで低温トラップした結晶を用いて、SPring-8でX線回折強度データの収集を行った。構造解析の結果、カルシウムが1個結合した構造が明らかとなり、カルシウムが結合する順番を明らかにすることができた。 また、溝端らは、SACLAの二液混合型インジェクターを用いて、時分割構造解析(TR-SFX)の条件検討を進めた。活性型リガンドフリーRubiscoの微結晶に基質RuBPを添加して触媒反応を誘起させ、遅れ時間(Δt)450 msと300 msの時間範囲においてTR-SFXのデータ測定を実施した。一方、RuBPにCO2が結合する触媒反応過程を解析するための試料調製のため、活性型Rubisco-RuBP複合体の結晶を低温で作製する条件を探索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
永野らの実験では,Fsa2微結晶と合成基質を用いて高速分子動画を撮影する実験を行ったが,期待した基質の結合や酵素反応過程を捉えることができなかった。一方,金属非結合型TauDにFe(II)を添加して活性部位を再構成することができたが,酵素反応を追跡するTR-SFX実験では酸化活性種などの反応中間体を捉えることはできなかった。また,分担者の中津らは長辺が5μm程度イクオリン微結晶を用いて、今一度発光実験を行った結果、発光最大値に到達する時間は1秒前後であることがわかった。そこで、反応0.5秒、1.3秒において2液混合SFX実験を実施した。その結果、立体構造を2.0A分解能で決定できた。しかし、すでに得られている、カルシウムが2個、ないしは3個結合した構造が得られ、大きな構造上の違いを見つけることができなかった。そこで昨年度確立したSPring-8における時分割測定法を用いてデータ収集を行ったところ、カルシウムが1個結合した構造が得られ、カルシウムが結合する順番を初めて明らかにすることができた。この方法は溶液の粘性をあげるためにセルロースが入っており、これにより反応が遅くなり、早い段階の構造を得ることができたと考えられた。さらに,分担者の溝端らは活性型リガンドフリーRubiscoの微結晶に基質RuBPを添加してからの遅れ時間(Δt)450 msと300 msにおいてTR-SFX測定を実施し、回折データから結晶損傷の度合いを評価することで、より短いΔtで測定することの必要性を明らかにできた。また、活性型Rubisco-RuBP複合体の結晶化条件の検討を4℃で行って0.1-0.2 mmサイズの結晶を調製することに成功し、この結晶で触媒反応の測定を行って結晶の品質を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
Fsa2と基質を混合する実験では基質の結合を確認することができなかったため,Fsa2の生成物やそのメチル化体(エキセチン)の結合型の結晶構造の決定を目指す。また,TauDでは,水酸化部位が重水素化された基質を用いると同位体効果によって反応速度が低下することが報告されているので,重水素化タウリンを用いたTauDのTR-SFX実験を目指す。 イクオリンの発光反応はカルシウムの結合で進行するが、マグネシウムの結合では発光しない。この要因を明らかにすることで、なぜカルシウムが必要なのか、どのような構造変化が発光に有用であるのかが明らかになるものと考えられる。さらには昨年同様の詳細を明らかにするために、計算班による酸化反応の量子計算をおこなうことで、より詳細な反応メカニズムの解明を目指す。 Rubiscoでは、二液混合型インジェクターを用いた新たな測定条件(Δtが160 msと90 ms)にてTR-SFXのデータ測定を実施し、触媒部位にRuBPが結合した当初の構造遷移の解析を試みる。また、活性型Rubisco-RuBP複合体の結晶をさらに低温(0℃以下)で作製する条件を探索し、RuBPにCO2が結合する触媒反応過程を解析するための準備を進める。他方、新たに蛍光タンパク質の光異性化メカニズムをTR-SFXによって解明するための実験を進める。
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