研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
19H05781
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
南後 恵理子 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 客員研究員 (90376947)
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研究分担者 |
清水 伸隆 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (20450934)
大和田 成起 公益財団法人高輝度光科学研究センター, XFEL利用研究推進室, 研究員 (90725962)
宮下 治 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 上級研究員 (10620528)
庄司 光男 筑波大学, 計算科学研究センター, 助教 (00593550)
篠田 恵子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (80646951)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | シリアルフェムト秒結晶構造解析 / タンパク質ダイナミクス / 溶液散乱 / 構造モデリング |
研究実績の概要 |
本課題では、X線自由電子レーザー(XFEL)と計算科学の手法を用いて、タンパク質が機能する際の構造変化過程を高い空間・時間分解能で捉える技術開発を行う。当該年度の研究実績として、XFELを用いたタンパク質動的構造解析(時分割解析)については、紫外から近赤外に至る各種レーザー照射によって誘起される反応をターゲットとし、シリアルフェムト秒結晶構造解析とポンプ・プローブ法を組み合わせた技術の確立とその装置の開発を行った。また、XFELによる溶液散乱測定系構築のための環境整備とテスト測定を実施した。データ処理方法の構築を進めると共に、今後行う複合体形成実験系構築のための液体クロマトグラフシステムを導入した。計算科学を用いた手法においては、(1)XFEL時分割データからの構造モデリングに分子動力学法を活用する手法の開発、(2)酵素反応機構の理論解析、(3)古細菌膜に埋め込まれたバクテリオロドプシンの光反応過程の分子動力学シミュレーションの3つについて行った。(1)については、シミュレーションから得られる分子の運動と実験から得られている構造モデルや電子密度の詳細な比較を行い、アルゴリズム開発に資する情報を得た。(2)は、アミン酸化酵素であるサルコシンオシキダーゼの反応機構を理論解析し、フラビンによるアミン酸化の普遍的活性化機構を見出すに至った。(3)は、古細菌の細胞膜脂質に特有のL-glycerol結合を持つ脂質の高精度な分子力場を作成し、古細菌脂質二重膜でバクテリオロドプシンを囲んだリアリステックモデルを構築し、数マイクロ秒の分子動力学シミュレーションを実行し、XFEL時分割データとの比較を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
XFELを用いたタンパク質動的構造解析(時分割解析)については、汎用的な試料輸送法の技術開発として、ベルトコンベア方式など新たな装置開発に取り組み、実際に開発した装置を用いてSACLAにて可視光励起によるポンプ・プローブ実験を実施し、検証を行った。また、XFELによる溶液散乱測定系の構築を行い、環境整備とテスト測定を実施した。特に、解析ソフトウェアの機能追加、高度化を進めると共に、今後行う複合体形成実験系構築のための整備を行った。XFEL時分割データからの構造モデリングに分子動力学法を活用する手法の開発では、シミュレーションから得られる分子の運動と実験から得られている構造モデルや電子密度の詳細な比較を行った。その結果、データの評価にはかなりの構造の不均一性を考慮する必要があることが示され、必要になる動的な構造分布をモデリングするアルゴリズムの開発を進めた。酵素反応機構の理論解析では、アミン酸化酵素であるサルコシンオシキダーゼの反応機構を理論解析し、フラビンによるアミン酸化の普遍的活性化機構を明らかにした。また、光合成集光アンテナ蛋白質の理論解析についてもA01との共同研究で進めている。古細菌膜に埋め込まれたバクテリオロドプシンの光反応過程の分子動力学シミュレーションでは、古細菌の細胞膜脂質に特有のL-glycerol結合を持つ脂質の高精度な分子力場を作成を完了した。また、古細菌脂質二重膜でバクテリオロドプシンを囲んだリアリステックモデルを構築し、数マイクロ秒の分子動力学シミュレーションを実行した。その結果、予備計算で行ったバクテリオロドプシン-生体モデル膜の不安定なシミュレーションとは異なり、安定なシミュレーションによるトラジェクトリを得た。
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今後の研究の推進方策 |
XFELによる溶液散乱測定技術開発については引き続き、標準試料を用いた検討を行い、測定方法の確立を目指す。また、液体クロマトグラフシステムも利用したオンライン試料導入システムの構築も進める。標準試料による検討後、実際の試料を用いて測定を行う際には、XFEL実験だけでなく、PF、SPring-8等の放射光ビームラインにおいても評価実験を進める。タンパク質動的構造解析法の装置・技術開発においては、近赤外線レーザーを用いた温度ジャンプ法による反応誘起システムを構築する。また、光励起や温度上昇などのレーザーによる反応励起について、試料に吸収された光子数や上昇した温度などを見積もり、試料の励起が目的の条件で正確に行われているかについて、検証を行う。なお、当該年度は計算科学分野の研究者が分担者として本班に参加したが、2020年度より独立した班として活動していく。
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