研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
19H05783
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山本 雅貴 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 部門長 (60241254)
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研究分担者 |
熊坂 崇 公益財団法人高輝度光科学研究センター, タンパク質結晶解析推進室, 室長 (30291066)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | X線結晶構造解析 / 構造ダイナミクス / 放射光 / 微小結晶構造解析 / 室温構造解析 |
研究実績の概要 |
2019年度は構造ダイナミクス研究で課題となる1.真空カメラおよび2.in-situ測定系の設計製作を進めた。 1.真空カメラ:「微小結晶からの微弱回折強度の正確な測定」に適した低バックグラウンド散乱の真空回折計を製作し基本試験を実施した。構造ダイナミクス研究での動的結晶構造解析には、結晶全体にわたるタンパク質構造変化の同期などの前提条件が必要である。結晶の小型化は反応同期の前提条件の点では優れているが、期待される回折強度が小さくなるため空気などバックグラウンド散乱の低減によるS/N向上が求められる。2019年度は試料ポットと駆動ステージ、試料冷却系と温度計測用熱電対、ロードロックチャンバーを介した真空槽への試料搬送機構、回折X線用大型窓等を備えた真空回折計を製作し、その基本試験で十分な真空度と冷却性能を達成している(真空度10^-3Pa台、試料ポット温度-187度)。一方、試料冷却系において低温安定性の課題が判明した。 2.in-situ測定系:生理活性温度環境構造解析を放射光で簡易に実施することを目的として、HAG試料雰囲気制御装置と測定法の開発を進めている。2019年度は、60℃までの高温に対応する調温調湿装置の製作と液体気化装置およびサーキュレーターの調達を行った。また、室温測定法の一つとして、rtHAG法+SS-ROX法の測定環境をSPring-8 BL41XUに整備し、リゾチーム微結晶の室温測定を実施した。試料は結晶サイズ15 μmで4 x 10^7個/mLの濃度に調製した。1データ当たり0.2 μLの試料消費で測定が可能で、100-200 kGyの線量で測定したとき分解能1.7 A程度の良質なデータの取得が確認でき、雑誌論文に投稿を準備中である。また、調湿測定に適した結晶化法についても足場タンパク質のデザインを行い、4量体ペプチド会合体の安定化にも成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は本研究専用の装置群の設計・製作期間であり、当初想定した装置群を計画通り製作完了したため。 真空カメラの開発では、4軸ステージに載る試料ポット、試料冷却系と温度計測用熱電対、大気から真空槽への試料搬送軸、入射X線スリット、回折X線取り出し大型窓、入射X線強度測定用P I Nフォトダイオード等を備える真空回折計を設計製作し、基本試験で十分な真空度(10^-3Pa台)と低温(-187度)が得られたことが、概ね順調に進展したと判断する理由である。実施した基本試験は、試料ポットを搭載する4軸ステージの各軸の動作確認、試料搬送軸の試料搬送位置と4軸ステージ各駆動軸の原点位置の確認、試料ポットを含む計4箇所に設置した温度測定用熱電対の動作確認、試料冷却系稼働時の真空カメラ内の真空度と試料ホルダーの温度確認を行なった。 in-situ測定系の設計製作では、これまでに開発した室温までの調温調湿装置を恒温動物の体温を含む高温側に拡張する開発を行っている。湿潤ガスの発生に蒸気圧の高い過熱水蒸気方式を採用している。この高温対応は今回が初めてであるが、既にpH調整湿潤ガス発生装置で同方式の実績があるためビームラインへの設置は容易と考えている。また、ガス加温に十分な熱容量のサーキュレーターも動作確認を済ませた。測定技術開発では、標準試料を用いて多様な条件での測定を行い、その結果を比較評価することで基準となる測定条件が策定できた。これは今後の多様な試料への適用において重要なポイントである。結晶化法については、足場タンパク質の変異体作成により安定な構造を得ることができており、それらの組み合わせによるデザインに一定の進捗がみられた。以上のことからいずれの項目においても、想定以上の進捗がみられており、順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究用に2019年度に制作した装置群のオフラインでの性能試験。その後の、標準試料を用いたビームラインでの実証実験から実サンプルでの動的構造解析の検討を開始する。 真空カメラの開発では、2019年度に判明した温度安定性の不具合の解決とビームラインで使用するための測定システムとしてのハードとソフトの整備を進め、動作試験として標準タンパク質結晶の回折実験を行う。温度安定性の不具合は、液体窒素流路の詰まりが原因と推定される。液体窒素溜と試料冷却ポット間の流路をより太い内径に変更する。さらに液体窒素への水分の混入を抑制するため、蓋を取り外すことなく液体窒素溜に液体窒素を充填できるよう改造を行う。測定システムとして使用するため、X線と試料回転軸の位置合わせ用自動軸増設、検出器とゴニオメータ動作の同期等を含む測定制御ソフトウエア開発を進め、動作試験としてSPring-8のビームラインにおいて標準タンパク質結晶の回折実験を行う。これらと並行して、バックグラウンド散乱源の一つとなる結晶付着水を結晶の質を損なわない範囲で可能な限り除去できる試料調製法を検討する。 高温対応調温調湿装置については放射光ビームラインへの設置および動作試験を実施、この装置の試験測定を行いつつ、20-60℃昇温測定法の開発を進める。微小結晶SS-ROX法については、タイムスライス高速データ測定法の開発のため、試料の状態を評価するオンライン顕微分光装置と光励起に用いるナノ秒OPOレーザーの放射光ビームラインへの導入の準備を開始する。これらの実験環境は、領域内研究者を中心に実験機会の提供を進めていく。また、HAG法に適した結晶化法の検討と開発も並行して行う。
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