転位は、材料の機械的性質を支配する結晶欠陥として、長年研究が進められてきた。一方、近年では転位による材料機能の発現が注目されつつあり、転位を利用した新機能材料創成に向け、転位と材料機能の関係を明らかにすることが期待されている。本研究では、様々な結晶格子欠陥の中でも転位に焦点を当て、その特異な原子配列から生じる機能発現量子場を「転位機能コア」として位置づけている。転位に関するモデル実験ならびに転位量子場のモデリングを通し、転位機能コアの機能発現について学理構築を行うものである。 令和5年度は、前年に引き続き、モデル実験による転位導入ならびに量子レベル計算を通した転位機能の解明を行った。特に、転位に起因する電気伝導、熱伝導、光物性について実験と計算の両面から評価を行った。実験結果の1つとして、転位のコア構造に光伝導特性が依存することが確認できた。これは転位におけるバンド構造変化と対応していると考えられた。また、転位を多数導入した半導体結晶においては、光の吸収特性のみならず発光特性も激変することが確認された。特に、室温での転位導入に拘った実験を行った結果として、従来、点欠陥によるものと考えられていた光物性変化の大半が転位によっても生じることが示唆された点は重要であると考えている。また、量子レベル計算を用いて、キンクによる熱伝導度への影響の評価を行った結果、らせん転位成分の効果により転位の湾曲が大きくなるにつれて熱伝導度が低下することが明らかとなった。このことから、転位近傍の応力制御等によりキンク形状を変化させることができれば、転位の熱伝導度も制御可能であることが分かった。
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