研究領域 | 機能コアの材料科学 |
研究課題/領域番号 |
19H05789
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
阿部 真之 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00362666)
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研究分担者 |
山下 隼人 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (10595440) [辞退]
稲見 栄一 高知工科大学, システム工学群, 准教授 (40420418)
勝部 大樹 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (00831083)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 非接触原子間力顕微鏡 / 走査型トンネル顕微鏡 / 高速原子間力顕微鏡 / パルスレーザー堆積法 / 光触媒 / 金属酸化物 |
研究実績の概要 |
欠陥の状態がコントロールされている原子レベルで平坦な表面試料(機能コア清浄表面)を作製し、研究代表者が保有する走査型プローブ顕微鏡技術を駆使し、原子~サブミクロンレベルで系統的に明らかにする実験を行った。主な成果を以下に示す。 (1)Fe/SrTiO3(100)表面におけるSTM測定:SrTiO3(100)表面において、室温でFe薄膜を堆積すると膜厚によってp型伝導からn型伝導に変化することを原子レベルで調査するために、PLDを用いてごく少量のFeをSrTiO3上に堆積しながら電子状態の変化を走査型トンネル顕微鏡で観察した。その結果、Feを堆積していくと、特定の原子レベルでのサイトで負バイアス時に電流が流れ始めることがわかった。これはFe薄膜を堆積させたことによる局所的な電子状態の変化が生じたと考えており、今後A01班に第一原理計算を依頼する。 (2)TiO2(110)-(1x2)表面におけるNC-AFM高分解能測定:TiO2(110)-(1x2)表面上に存在する局所構造のうち、[001]方向に生じる線欠陥は水との反応性がなく、非常に得意な性質を示す。そこで、ケルビンプローブ力顕微鏡をこの表面で行った結果、周辺よりも負に帯電している傾向があり、その影響は最隣接するダイマー列にまで及んでいることがわかった。線欠陥は酸素が抜け出たか配置が変化することで生じていると考えており、現在A01班が第一原理計算によって確認を行っている。 (3)高速AFMによるSrTiO3(100)表面の光触媒測定:SrTiO3(100)表面の光触媒の効果を調べるために、表面に脂質二重膜を展開し、紫外線を導入して高速AFM測定しながら脂質が分解されるのを確認した。その結果、SrTiO3とTiO2ではどちらも脂質の分解速度にばらつきがあることがわかり、その速度分布は両者ともにほぼ同じであることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記以外の成果としては、(1)X線光電子分光によるルチルおよびアナターゼ表面のガス反応性のリアルタイム測定、(2)金属酸化物界面の初期成長を高分解能で調べるためのNC-AFM/STMシステムの開発、(3)窒化TiO2実現のための実験環境の構築、(4)局所的な電子状態を調べることができる新規のAFMの開発、(5)結晶成長のモデル材料として氷の結晶成長を観察できるNC-AFM/STMシステムの開発、(6)機械学習を用いたフォーススペクトロスコピーの自動解析を行った。領域内の連携としては、我々の班で得られた実験結果に対してA01班に数値計算の依頼している(その他、上述したFe/SrTiO3についても依頼する予定)。窒化TiO2の実験系においてはA03(キ)班からの技術提供を得た。公募班の研究者1名と機械学習を用いたフォーススペクトロスコピーの自動解析に関する共同研究を行い、光触媒材料であるSnO2の研究を公募班の研究者1名を開始した。 脂質二重膜の光触媒効果による分解過程を調べる高速AFM測定に関して、詳細な実験条件を調べたところ、光触媒効果のない材料表面においても、分解が進む場合があることがわかった。これは、非常に強いレーザー光を導入した場合の脂質部分の温度上昇、カンチレバーの試料への押し込み量や大きい振動振幅による試料へのダメージなどが原因であることがわかった。今後は、光触媒材料の観察を実施する直前に、光触媒効果がない表面で脂質が分解されない実験条件を確認する必要があることがわかってきた。次年度以降は、領域内から新規の光触媒材料の提供もあるために、慎重に実験を進めることが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
原子分解能のNC-AFM/STM測定に関しては、金属酸化物界面の初期成長を高分解能で調べるためのNC-AFM/STMシステムの開発に注力する。具体的には、LaAlO3/SrTiO3界面の状態を詳細に調べる。また、窒化TiO2実現のための実験環境の構築、局所的な電子状態を調べることができる新規のAFMの開発、結晶成長のモデル材料として氷の結晶成長を観察できるNC-AFM/STMシステムの開発、機械学習によるNC-AFM/STM自動システムの開発、などを行う。高速AFMによる光触媒材料に関しては、実験環境が整いつつあるので、さらに様々な材料観察を行う予定でいる。具体的には、TiO2のアナターゼ型とルチル型との反応性の違い、SnO2を始めとするこれまで光触媒ダイナミクスが観察されてこなかった材料への展開などを進める。この研究を行う上で、高速AFMで利用できる微小な試料の超高真空中での処理を行えるための装置開発が重要となる。また、X線光電子分光によるルチルおよびアナターゼ表面のガス反応性のリアルタイム測定も引き続き行う。
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