研究領域 | 機能コアの材料科学 |
研究課題/領域番号 |
19H05790
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
遊佐 斉 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主席研究員 (10343865)
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研究分担者 |
長谷川 正 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20218457)
宮川 仁 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (40552667)
川村 史朗 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (80448092)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 高温高圧合成プロセス / 大容量ベルト型装置 / ダイヤモンドアンビルセル / 高圧パルス通電焼結法 / 粒界制御 |
研究実績の概要 |
大きな期待をもって高機能が予測される物質においても、実際の合成が伴なわなければ機能コア研究は加速しない。本計画班では、機能コア抽出のための協奏的研究の場として、超高圧材料合成法を縦横無尽に利用するとともに、領域研究推進のための高圧合成プロセスの様々な高度化を図っている。本年は、様々な多成分試料への対応のための高圧合成プロセス高度化に力点をおいて研究を進展させている。 本年度の研究実績として以下のものが挙げられる。新規多元系窒化物及び硫化物半導体合成に取り組み、ベルト型高圧装置で達成可能な温度・圧力領域で複分解反応を用いることでMgSnN2、CaSnN2という新たな直接遷移の半導体合成に成功した。これらの半導体はいずれもバンドギャップEg≒2.2~2.4eVであり、グリーンギャップ問題の解決に繋がり得る材料であることが明らかとなった。また、アンモニウム塩を用いた大型プレスによる高圧結晶成長法を確立し、新しい金属窒化物結晶の創製に成功した。W窒化物結晶では,MoC型の結晶構造,多量の窒素欠損の存在,高い体積弾性率と硬質特性が明らかとなった。Ta多窒化物結晶では、ナノワイヤーの創製に成功し、成長プロセスと育成最適条件、含有酸素の存在、高い体積弾性率と硬質特性が明らかとなった。また、層状窒化レニウム(ReN2)からのWC型ReNの合成、新規YN高圧相の発見や、超硬質材料であるcBNのホウ素同位体濃縮による大きな熱伝導度の向上等、窒化物関連における成果が顕著である。高圧プロセスの高度化関連においては、以下の進捗状況で詳細を述べるが、多成分試料調整浮遊炉、均一反応用急冷凝固装置を新規に設計構築したほか、高圧合成原料スパッタ装置の導入、高圧SPS用試料構成の最適化等がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大型プレスとダイアモンドアンビルセル(DAC)を用いた2種類の高圧合成・結晶成長手法の開発を進め、複分解反応等による多成分系への展開を含めた新規金属多窒化物の創製と、ナノ結晶や薄膜といった形態の新物質の創製を進めた。また、常圧では合成されないシリコンやゲルマニウム等の半金属に富む化合物の高圧合成を目指し、ナノオーダーで均一な出発試料を準備するために、均一組成の出発物質を急冷法により作製することができる均一反応用急冷凝固装置を導入した。さらに、高圧合成のための均一出発ガラス試料準備に用いる多成分試料調整浮遊炉を構築し、大気雰囲気での試料の浮遊を確認した。また、雰囲気制御下により準備された原料をもとに高圧合成された原料をターゲットとして利用して、実用大の薄膜生成のための高圧合成原料スパッタ装置を予定通り導入し、試料合成加速のための準備をおこなった。次年度、ベルト型高圧装置へ導入予定であるパルス通電焼結法(SPS)を用いた高圧下SPSの予備実験として、デフォルトの高圧セルを用い、試料が直接ヒーターに接するSPS配置、ヒーターに接しない間接配置のそれぞれにおいて、7.5 GPa,2000℃までの試料位置の温度計測を行い、高圧セル構成・サイズの最適化を検討した。また、DACを使った高圧状態でのX線回折による構造決定の分解能を向上させるための二次元集光用X線屈折レンズの導入検討や加圧機構の自動化、DAC内での蛍光測定用の紫外レーザー光学系の構築など、要素技術の高度化も進展中である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、高圧装置に導入予定のSPSの立ち上げに注力する。パソコンにより装置の状態を自動計測するプログラム作成等を行い、圧力・温度校正や高圧力下SPS処理をルーティンで使用できるように、装置環境の構築に取り組む。装置が定常稼働した後は、Al2O3などのモデル物質に対し、高圧下SPS焼結処理を行い、粒界構造観察、焼結密度、透光性などの評価を通じ、高圧下SPS処理の概要把握に努めていく。翌年以降は、対象物質系を炭素系や窒化物系などの難焼結性物質への適用を進めていく。高圧焼結と高圧下SPS焼結における本質的な差について、理解の元となるデータ取得に努め、計測班・理論班と連携していくことで、その本質を理解することを目指す。 新規物質探索研究においては、高圧合成・結晶成長手法を用いて創製する物質群を金属窒化物やシリコン・ゲルマニウムの化合物のみならず、他の物質群も対象とする。さらに、これら新物質の局所構造や構造欠陥が相安定性や機能特性とどのように相関しているかを、他の研究グループとの連携研究によって解明する。 高圧合成試料から薄膜生成への合成プロセスの流れは、実用材料への展開として重要であり、その点を指向した研究も推進する。前年までに、高圧下複分解反応による疑似Ⅲ-V族窒化物半導体合成にとりくみ、化合物半導体における高効率太陽電池への応用面を模索している。現在、三元系硫化物(BaSnS3、SrSnS3、CaSnS3)合成が進行中であるが、今後、高圧合成した物質をターゲット材として用いて薄膜合成をおこなうことを計画している。また、MgSnN2、CaSnN2についてはp型化を実現するためのドーパントの探索を開始する。なお、多元系半導体においては、バルク試料と薄膜合成試料について積層構造が異なることが常である。それぞれの微細構造についてTEMにより直接観察をおこなうことを検討する。
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