研究実績の概要 |
窒化イットリウム(YN)の高圧相が当初第一原理計算で予測されていた、B2(CeCl型)ではなくB10型であることが、120GPa以上のX線その場観察実験で明らかとなった(Yusa et al., Inorg. Chem., 2022)。N-N二量体包含CuAl2型VN2を新たに発見し、VイオンはV4+であること,体積弾性率が347GPaであることを明らかにした(Asano et al., Dalton Trans., 2022)。また,従来のプロトタイプ構造にはない空間群Cmcmの直方晶Mo3N5を新たに見出し、構造的にN-N二量体の方向に対応した軸異方性圧縮率を持ち、体積弾性率は328GPaであると決定された(Sasaki et al., Dalton Trans., 2022)。さらに、新規超高圧薄膜合成技術として、N-N二量体包含パイライト型PtN2薄膜を世界で初めて合成し、電流電圧特性と光反射率を測定し、バンドギャップ約2eVの半導体であることを明らかにした(Niwa et al., AIP Adv., 2022)。 超高圧力下パルス通電焼結法(HP-PECS)によるNaCl型TaN焼結体の作製を行った。昨年度とは異なり、PECSパラメータではなく、他のNaCl型窒化物(TiN, NbN, CrN)を添加による焼結体構造組織変化を検証した。CrN添加では、ビッカース硬度19 GPa程度まで、焼結体硬度の改善に成功した。また、高圧窒素環境中でのFlux-Film-Coated LPE (FFC-LPE)による、高品質GaN薄膜成長において、下地/エピタキシャル層界面の高分解TEM分析を他班連携により実施した。結果、僅かにフラックスに添加したSrが成長初期にSr-O系粒子として下地上に成長し、界面全体を覆うことにより、結晶成長の品質向上に寄与していることが明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までに開発してきた幅広い圧力領域での物質高圧合成装置、高圧化学反応と機能物性評価装置に加え、前年度導入した高圧合成用高分解能分光器を利用した高圧その場測定を用いて、遷移金属-半金属系化合物や多成分系酸化物・金属窒化物・金属リン化物などの新物質を創製し、それぞれの物質の結晶化学および電子構造を明らかにするとともに、弾性、熱膨張性、蛍光特性、磁性、硬質物性などの機能物性の解明と緩和を含めた構造・欠陥との相関を明らかにする。これらの研究において、構造解析研究、計算研究を推進する他班との連携を推進し、機能物性と機能コアの関わりを明らかにすることを目指す。 新手法のHP-PECSの開発と利用研究においては、高い導電性の遷移金属窒化物において、PECSパラメータの追究と成分添加による硬質機能向上を試みてきた。今後、共添加成分も検討し、焼結条件を追究していく予定である。粒界析出物が認められた試料では、SEM-EDX等による析出物の同定を進めるとともに、物性に対しての影響を検証するために、磁化率や硬度測定等を検証する。 最近、新規反強磁性半導体としてMnSnN2薄膜合成が報告された. 磁性半導体は、磁気特性を電界や光などの外部入力によって制御できることで注目されるが、Intrinsicな物性評価のためにはバルク結晶の合成が必須である. これまでに高圧下複分解反応を用いて開発してきたZnSnN2, CaSnN2, MgSnN2等の半導体合成のノウハウを用いてMnSnN2のバルク合成を実施する. また、MnSnN2は常圧ではウルツ鉱型が安定であるが、高圧相転移温度・圧力についても調査する. 高圧構造のその場観察における高速時間軸の導入によるX線データ収集の効率化や歪み下の相転移過渡現象の追跡のための技術開発も進める。
|