【1. 反応の機能とその情報熱力学】 完全適応に伴う反応論および化学熱力学的な議論を行うため、可逆反応系を仮定した完全適応のミニマル反応モデルの構築を行った。モデルの解析から、孤立系において特定のパラメータ摂動に対して、定常状態が不変に保たれる条件などを導くことができた。しかしながら非平衡状態を仮定した場合、完全適応が成立する条件およびそこに付随するエントロピー生成などの熱力学的な量の間に明確な対応関係は見出すことはできなかった。少なくとも平衡系であればネットワークの構造と完全適応の関係などがある程度わかることから、反応ネットワークの代数構造に伴う理論の調査と活用方法の検討を行った。合わせて、グレブナー基底などの計算代数を援用した反応系の解析方法の検討も進めた。 また複数のリガンド分子を細胞が見分ける問題に完全適応でのアプローチを応用するため、確率過程に基づく分子認識モデルの構築も行った。その解析からノイズや背景分子があることによって、むしろ分子の認識・弁別精度が向上する場合があることなどが数値計算により示すことができた。その内容を取りまとめ、Chaosに発表した。
【2. 1細胞の適応・学習過程の情報物理学】 大腸菌走化性において確率的な受容体応答から大腸菌がリガンド濃度の時間変化を探知する問題に対し、最適フィルター理論に基づきモデル化を行い、最適な探知に必要なネットワーク構造や最適な探知に伴う性質の解析を行った。当初、かなり一般的なモデルの検討を行ったが、大腸菌化学走性研究において明らかにされている走化性ネットワークとの対応関係を調べる目的で、受容体での早い反応などを省略化した粗視化モデルなどを参考とする方向性に切り替えた。特にTu、Shimizuらが提案している標準分子モデルとの対応関係の解析を進めた。
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