研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
19H05799
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 徹也 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (90513359)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 理論生物学 / 化学熱力学 / 化学走性 / 最適フィルター / 受容体応答 / 確率モデリング / 最適制御 / 部分観測制御 |
研究実績の概要 |
【1. 反応の機能とその情報熱力学】 本年度は個別のモデルの解析から一旦離れ、より高い視点から反応系のグラフ的な構造の一般理論をEspositoらのフレームワークを基礎にしつつ、物理以外の他分野での成果を統合することにより模索をした。その結果、反応系のパラメータ摂動応答などを調べる上で、反応のグラフ構造に基づく各種組合せ論的な的な方法が活用できることが明らかになった。
【2. 1細胞の適応・学習過程の情報物理学】 本年度はまず前年度に明らかになった、大腸菌の走化性ネットワークと最適フィルターとの関係性について論文にまとめ投稿をした。特に論文のリバイスの過程でこれまで想定していなかっったモデルのパラメータ付の可能性が明らかになり、それらも考慮した理論を構築した。また最適フィルターとの対応から導かれる関数形が実験的に計測された走化性非線形応答関係を極めてよく説明しうることも確認した。加えて、匂い勾配の大きさや感知ノイズの大きさなど各種パラメータの変化に対するシステムの応答性や、生理学的パラメータと最適なパラメータとの対応関係の精査も行った。並行して、大腸菌が自身が感知した情報をもとに制御を行う場合を最適制御の枠組みで扱う理論解析も進めた。さらに細胞性粘菌などのアメーバ状の細胞にこれらの理論を拡張する方向性の検討も開始した。
【3. 多細胞集団現象の情報物理学】 情報処理や制御の最適性の観点から多細胞集団動態を捉えるための新たな理論の構築に関する検討を開始した。部分観測制御の理論をcontrol as inferenceの方法論を用いて拡張し、その内容を多数のエージェントが関わる最適化問題に拡張することを行った。また理論的な観点からこのような最適化問題を数値的に解くための解法の検討やその性能の評価なども進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【1】に関しては、当初想定したよりも理論的背景が複雑であることがわかってきたが、新しい手法などを導入して着実に問題を整理し、解明する方向性に進んでいると考えている。 【2】については、大腸菌走化性ネットワークと最適フィルターの間の定性的・定量的な対応関係を見出すことに成功した。この結果は非常に大きな成果だと考えている。 【3】については予定通り、研究の着手を進めた。全体としては研究は着実に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
計画通り研究をすすめる。
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