研究領域 | 地下から解き明かす宇宙の歴史と物質の進化 |
研究課題/領域番号 |
19H05803
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井上 邦雄 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 教授 (10242166)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 二重ベータ崩壊 / マヨラナニュートリノ / 宇宙物質優勢 / 極低放射能 / 地球ニュートリノ |
研究実績の概要 |
ニュートリノレス二重ベータ崩壊探索では、PMTの老朽化によるゲイン低下、宇宙線によるキセノン原子核破砕で生じる長寿命放射性同位体が課題であった。ゲイン低下に対しては、順次電子回路の増幅率を増大させており、特性の時間変化を連続較正することで、エネルギー再構成の改良と合わせて、分解能低下を回避できている。また、宇宙線による原子核破砕の理解を進め、長寿命核生成には多重中性子生成の特徴があることを見出し、これに基づくタギング手法によって、日スケールでのBG低減を実現した。タグ側との同時フィットで探索感度を大幅に向上できる。その結果、全データの統合解析で2.3×10^26年(90%信頼度)の下限半減期を得た。マヨラナ有効質量で36~156meV以下に相当し、世界で初めてニュートリノ質量の逆階層領域に大きく切り込んだ。複数の理論予想にかかっており、探索の質的転換を実現している。並行して、機械学習を利用した粒子識別やエネルギー・反応点再構成プログラムを開発しており、順次導入していく。また、未対応であったミューオン束事象に対しても、複数同時のトラック再構成手法を新たに開発し、既存の単体ミューオン再構成を凌駕する性能を実現した。今後のさらなるバックグラウンド低減に活用する。さらに、将来の性能向上のための極低放射能実験環境を整備し、大規模改修で導入予定の集光ミラー・高発光液体シンチレータ・高量子効率PMTの統合試験環境を構築した。ここでは、開発中の新型電子回路の試験運用も行われるほか、領域活動で共用する。地球ニュートリノ観測においては新たに国外原子炉の運転履歴やMOX燃料の影響を考慮し観測精度を継続的に高めており、ウラン・トリウムの分離測定によって地球モデルの識別能力が大きく高まった。また、天体ニュートリノに対しても低エネルギー領域で世界で最も厳しい制限を与えることに成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ニュートリノ質量の逆階層領域に大きく切り込むニュートリノレス二重ベータ崩壊探索を実現したことで、当初の目標を前倒しで達成した。さらに、機械学習による粒子識別や位置・エネルギー再構成、ミューオン束の再構成など新たなツールの開発に成功しており、これらの導入で目標を凌駕する探索が期待できる。 地球ニュートリノ観測においても、地球モデルの精度を凌駕する観測精度を達成しており、こちらも当初の計画を前倒しで達成している。ウラン・トリウムの分離測定が順調に進んでおり、多角的な地球モデルとの比較が可能になってきている。地球ニュートリノ観測と地球モデルの比較方法の新たな標準を提案しており、カムランドが開拓したニュートリノ地球科学をさらに強力に推進できている。地球ニュートリノ観測で識別できる地球モデルは地球形成時の主要な隕石組成と地球進化にリンクしており、宇宙の化学進化を研究対象とする領域の研究をさらに発展させることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
ニュートリノレス二重ベータ崩壊はいつ発見があってもおかしく無い状況なので、データ蓄積と新技術導入で更なる感度向上を行い、世界最先端を継続する。特に、ニュートリノを伴う二重ベータ崩壊と太陽ニュートリノ以外のほとんどのバックグラウンドはガンマ線を伴い、機械学習を使った粒子識別がその低減に有効であることが判明しているので、積極的に機械学習を導入していく。また、複数ミューオンの再構成は、高性能ながらまだ計算が遅いため、高速化しつつ導入を進める。これらの新技術の性能実証には、実データでの較正が重要であるため、よく理解できたデータサンプルの蓄積を並行する。 構築済みの極低放射能実験環境では、プロトタイプ集光ミラーが納入され次第、検出器要素の統合試験を実施し、性能実証とともに更なる改良へのフィードバックを行い、将来の大規模改修に備える。新型電子回路は、半導体不足のため十分な数量の納品が期待できないが、この統合試験においてデータ収集系を含む開発を継続していく。状況が改善次第導入を進め、中性子検出効率の大幅向上によって長寿命原子核破砕生成物からのバックグラウンドをさらに低減し、ニュートリノレス二重ベータ崩壊探索の高感度化を進める。 地球ニュートリノ観測に関しては、観測精度が地球モデルの精度を凌駕し、国外の原子炉ニュートリノのモデル化も十分高精度で実現できているため、今後は地球モデルの精度改善が最重要課題となる。カムランド実験としてはデータ蓄積による観測精度の向上を続け、並行して地球科学者と連携した地球モデルの精度向上、特に地球内部のダイナミクスも考慮する地球ダイナミクスモデルの構築を目指す。
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