研究領域 | 地下から解き明かす宇宙の歴史と物質の進化 |
研究課題/領域番号 |
19H05811
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
鈴木 英之 東京理科大学, 理工学部物理学科, 教授 (90211987)
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研究分担者 |
山田 章一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80251403)
鷹野 正利 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00257198)
中里 健一郎 九州大学, 基幹教育院, 助教 (80609347)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 超新星ニュートリノ / ニュートリノ集団振動 / 原始中性子星 / 状態方程式 / ニュートリノ放出率 / 重力崩壊型超新星爆発 |
研究実績の概要 |
山田を中心に、京コンピューターを用いた大規模シミュレーションに基づき超新星コアにおけるニュートリノ集団振動の可能性を明らかにした。特にfast conversion modeは運動量空間におけるニュートリノの角度分布に強く依存するため、現在その定量的な解析ができるのはニュートリノの運動量空間における分布を人為的な仮定やモデルなしに計算できる我々だけである。 中里、鈴木は原始中性子星冷却期におけるニュートリノ減光の時間スケールについて、現象論的な状態方程式を用いてさまざまな質量や半径を持つ中性子星に対して数値計算をおこない、得られた結果が解析的に導かれた表式と一致することを見出した。さらに、この結果を応用してニュートリノ観測から中性子星の質量・半径に制限をつける手法を提唱した。また、新学術領域「冥王代生命学」との連携を目指して、同領域の丸山・戎崎らとの議論を行い、彼らの提唱する大陸三層モデルに基づく地球ニュートリノの計算の準備を開始した。 鷹野を中心とするグループでは、現実的な核力から出発した超新星爆発計算用核物質状態方程式であるTogashi EOSを用いて、それと自己無矛盾な修正URCA過程及び核子制動放射によるニュートリノ放射率を計算することを研究目的とし、Togashi EOSで得られる核子間相関関数および核子有効質量を用いて、修正URCA過程のニュートリノ放射率を計算する研究に着手した。そして中心力相関関数とテンソル力相関関数としてTogashi EOSでの値をそのまま用いた場合の修正URCA過程のニュートリノ放射率を計算したところ、先行研究より相当小さいニュートリノ放射率が得られた。さらにその原因は、相関関数のhealing distanceでの微係数の不連続性にある可能性が高いことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
京コンピューターを用いて進めてきた超新星爆発シミュレーションを富岳やその他のHPCI資源で行うために、コードの開発を行なっている。特に、一般相対論化と3次元化を推進しており、予定通り順調に進んでいる。また、ニュートリノと物質との相互作用をより詳細なものにする準備も進めている。原始中性子星の冷却時に放出されるニュートリノに関しては、現象論的なパラメーターを導入することに成功し、系統的な状態方程式依存性を詳しく調べることができた。 一方、状態方程式と自己無矛盾なニュートリノ放出率の計算に関しては、上述の相関関数のhealing distanceでの微係数の不連続性を回避するため、Lagaris-Pandharipande(LP)の方法を採用した。この改良により従来よりもrangeの長い相関関数が得られるようになり、それを用いた修正URCA過程のニュートリノ放射率の値も先行研究の値に近づいた。さらに相関関数への3体核力の影響を取り入れる改良を行った。しかし得られた修正URCA過程のニュートリノ放射率は、先行研究の値に比べてまだ小さい値となっている。 超新星背景ニュートリノと化学進化の総合的な研究に関しては、r過程元素が放出する地球ニュートリノの計算に取り掛かかるにとどまり、体制の強化が必要である。 新型コロナウィルス感染の拡大に伴い、3月に予定していた研究会などが開催できず、関連研究者との活発な研究議論が不足したことは否めないが、2月末の国際ワークショップは遠隔参加の緊急対応なども行い開催できた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで京コンピューターを用いて行なってきた系統的2次元シミュレーションをHPCI資源に移行して続ける。また、超新星爆発に続いて起こる原始中性子星冷却を同じコードを用いて計算できるようにする。 一方、球対称計算による超新星ニュートリノの系統的な研究に関しては、核物質状態方程式としてより現実的なモデルを採用し、またearly phase(重力崩壊・物質降着期)も含めて、超新星からのニュートリノ放出の数値計算をおこない、状態方程式に由来する不定性の程度を評価する。さらに実際に、近傍で超新星爆発が起こった時にスーパーカミオカンデなどで検出されるイベントを評価する。 状態方程式と自己無矛盾なニュートリノ放出率の計算に関しては、これまでLPの方法を踏襲して、中心力的相関関数とスピン・軌道力的相関関数のhealing distanceを共通に選んでいたが、これにより変分の自由度が制限され、修正URCA過程のニュートリノ放射率が小さく抑えられている可能性がある。そこで中心力的相関関数、テンソル力的相関関数、スピン軌道力的相関関数のhealing distanceの全てを独立なパラメターとして扱うことにより、修正URCA過程のニュートリノ放射率計算値の改善を目指す。そしてこの手法を核子制動放射の場合へと拡張することで、Togashi EOSの熱力学量と自己無矛盾な核子制動放射率を計算する。 超新星背景ニュートリノと化学進化の総合的な研究に関しては、研究体制を強化するため、2020年度より化学進化の専門家である国立天文台の辻本氏を研究分担者に加わっていただくこととした。
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