研究領域 | 蓄電固体デバイスの創成に向けた界面イオンダイナミクスの科学 |
研究課題/領域番号 |
19H05814
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
雨澤 浩史 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90263136)
|
研究分担者 |
桑田 直明 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 主幹研究員 (00396459)
高橋 幸生 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (00415217)
尾原 幸治 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 主幹研究員 (00625486)
森 茂生 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20251613)
熊谷 明哉 東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (50568433)
池田 一貴 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別准教授 (80451615)
山本 和生 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 主任研究員 (80466292)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
|
キーワード | 蓄電固体界面 / 高度計測 / 固体イオニクス |
研究実績の概要 |
蓄電固体界面で観測される特異なイオン輸送、蓄積特性は、界面近傍で局所的に生じる様々な物理化学状態の変調・分布が複雑に絡み合って発現すると考えられているが、その支配因子はほとんど理解されていない。本研究では、様々な最先端計測技術を結集し、蓄電固体界面近傍における各種物理化学状態の変調・分布を多角的に実測し、これらの知見を総合的、網羅的に融合することで、蓄電固体界面の物理化学的状態と特性を体系的に扱うことのできる新しい学理の構築へと繋げることを目的としている。 今年度は,固体電解質LATP上に成膜したLiCoO2薄膜を蓄電固体界面の共通モデルヘテロ界面試料,硫化物系ガラスセラミックス電解質を蓄電固体界面の共通モデルホモ界面試料とし,これらの物理化学状態を評価できる体制を整えた。ヘテロ界面については,X線吸収分光,電子線ホログラフィー,電気化学プローブ顕微鏡計測をオペランドで実施した。モデル試料に電圧を印加し,その際に正極/固体電解質近傍で生じる化学状態や電位変化を評価することに成功した。加えて,新たな評価手法として期待されるケルビンプローブ顕微鏡を導入し,計測体制を強化した。一方,ホモ界面については,その複雑な構造の評価を可能とするX線,中性子線,電子線全散乱計測ならびにその二体分布関数(PDF)解析手法を開発した。また,これらをモデル試料に適用し,解析手法の妥当性の検証を行うとともに,非晶・結晶混在構造の分離構造解析などを実施し,それぞれの結果による相補的な検討が可能であることを示した。さらに,蓄電固体材料のイオン拡散評価のためにPFG-NMRおよびTOF-SIMS,蓄電固体材料のナノ構造,化学状態の三次元可視化のためにタイコグラフィXAFS法の高度化を実施した。前者については,LiCoO2の拡散係数評価に適用し,その異方性を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新学術領域の中で蓄電固体界面の高度計測を担当する本研究では,初年度の計画として,①蓄電固体界面でのイオン輸送・蓄積特性に特に大きく影響を及ぼすと考えられる化学因子,電気・電気化学因子,構造因子を明らかにすることをできる高度計測手法の確立,および,②これら高度計測手法を,順次,蓄電固体界面の物理化学状態の多角的実測に適用していく,ことの二点を掲げていた。①では,参画研究者等が有する各種計測技術(X線吸収分光,電子線ホログラフィー,電気化学プローブ顕微鏡,X線・中性子線・電子線全散乱,PFG-NMR,TOF-SIMS,タイコグラフィXAFS,ケルビンプローブ顕微鏡)を蓄電固体界面の評価に適用できるよう,手法の高度化・新規導入を実施した。ここでは,単に個々の手法の高度化に留まるのではなく,いくつかの共通試料に対し,複数の計測を集中して実施し,結果の多角的な検討,クロスチェックが可能な体制を構築することに注力した。②では,固体電解質LATP上に成膜したLiCoO2薄膜を蓄電固体界面の共通モデルヘテロ界面試料,硫化物系ガラスセラミックス電解質を蓄電固体界面の共通モデルホモ界面試料として選択し,①で改良,確立された手法を適用することで,その有効性,妥当性を検証するとともに,蓄電固体界面の化学因子,電気・電気化学因子,構造因子の評価を開始した。一部,手法の高度化が完全に完了していない計測もあったが,これらは実際に蓄電固体界面の計測に適用して新たな課題が明確化したことによるものであり,現在,それに対する対策を実施している。 以上から,本研究は当初の予定通り,おおむね順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究において,採用している各種計測技術(X線吸収分光,電子線ホログラフィー,電気化学プローブ顕微鏡,X線・中性子線・電子線全散乱,PFG-NMR,TOF-SIMS,タイコグラフィXAFS,ケルビンプローブ顕微鏡)については,蓄電固体界面における化学因子,電気・電気化学因子,構造因子の評価に用いることのできる体制を確立することができた。これらの成果を踏まえ,次年度は,各種計測技術を実際の共通モデル蓄電固体界面試料の評価に適用し,複数の計測手法の統合利用による,多角的な検討を本格化する予定である。共通モデル試料としては,現在のモデルヘテロ界面試料(固体電解質LATP上に成膜したLiCoO2薄膜),モデルホモ界面試料(硫化物系ガラスセラミックス電解質)を継続して使用していく予定であるが,これらに加え,A01班(界面構築),A04班(機能開拓)とも連携の上,新たなモデル界面への適用も検討する。さらに,これまでに得られている,あるいは次年度に得られるであろう計測結果をA03班(計算・データ科学)と情報共有し,蓄電固体界面の理論構築のための理論計算を開始する。一方,今年度の研究を通し,さらに追加の計測が必要だと思われる物性・特性もあることが明らかにされた。これについては,まず,現状の計測技術およびその解析手法の更なる高度化により,さらに詳細な計測,評価を可能にするとともに,次年度から加わる公募研究の研究者等とも連携することで,解決を図る予定である。
|