研究領域 | ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
19H05819
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高倉 洋礼 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (30284483)
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研究分担者 |
綿貫 徹 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, センター長 (30343932)
松浦 直人 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 主任研究員 (30376652)
門馬 綱一 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, 研究主幹 (30552781)
松下 能孝 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 技術開発・共用部門, 副ステーション長 (70422441)
藤田 伸尚 東北大学, 多元物質科学研究所, 講師 (70431468)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 準結晶 / 近似結晶 / 静的構造 / 動的構造 / 相形成 / 相安定性 / 構造可視化 |
研究実績の概要 |
高次元と高対称で特徴づけられるハイパーマテリアルの構造的側面に焦点をあて、その原子スケールからマクロスケールまでの静的・動的構造を組織的に解明し、その構造的知見にもとづいて、個々の物質群を越えて、ハイパーマテリアルが普遍的に示す安定化機構や、特異な物性機能を理解するための補空間物質科学の構築の基礎を与えるのが目的である。今年度は、Mg-Zn-Al合金において安定な正20面体準結晶の析出を発見し、準結晶とマトリックスの方位関係を明らかにした。新しいMg-Zn-Al系近似結晶である2/1-1/1-1/1近似結晶を見出し、単結晶X線構造解析を行った。典型的なP型正20面体準格子とその結晶学的dualを合算し、11種類の多面体からなる新しいタイリング(dualized Ammann-Kramer-Neriタイリング)を構築した。Cd-Mg-Y系およびCd-Mg-Er系における2/1近似結晶、Cd-Mg-Ce系における新しいタイプの1/1近似結晶、さらにAl-Pd-Mo-Fe系高次近似結晶等について、単結晶の育成と作製単結晶X線構造解析に成功した。放射光コヒーレントX線回折イメージング法の解析の高度化を進め、Al-Cu-Ru 系1/1近似結晶に適用し、内部の各ドメイン同士の相対原子変位や構造因子差分を反映した位相分布の3次元可視化を実施した。中性子散乱において、Al-Pd-Mn準結晶の音響フォノンの追加実験、量子臨界性を示すAu-Al-Ybのスピン揺らぎ測定、長距離磁気秩序を示す近似結晶Au-Al-Tbのスピン揺らぎ測定を行った。X線非弾性散乱によるAl-Cu-Ru系準結晶の高温フォノンの本実験を行った。6次元空間で表現される正20面体準結晶の可視化に引き続き、5次元空間で表される正10角形準結晶の可視化にも対応した。phason歪みを入力して近似結晶構造を導出する機能も実装した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mg-Zn-Al合金において安定な正20面体準結晶の析出を発見し、準結晶とマトリックスの方位関係を明らかにした。新しいMg-Zn-Al系近似結晶である2/1-1/1-1/1近似結晶を見出し、結晶構造解析に成功している。dualized Ammann-Kramer-Neriタイリングを発見しその局所的性質を明らかにするなど、正20面体準格子の数理的研究において新しい進展が見られた。現実の正20面体ハイパーマテリアルの結晶構造解析も順調に進んでいる。放射光コヒーレントX線回折イメージング法の解析の高度化として、像回復計算の際の実空間拘束条件の設定法を改良し、ハイパーマテリアル試料について安定した像回復を可能とした。また、高温観察に向けて、660℃までの温度でのコヒーレントX線回折実験環境を整備した。Al-Cu-Ru系近似結晶のアトマイズ粉末試料を作製し初期的な高温ダイナミクス解析を開始した。昨年度見出したフォノン強度の特異な減少(擬ギャップ)について追加実験を行い、擬ギャップエネルギーが準結晶の黄金律τにスケールされることを見出した。長距離磁気秩序を示す近似結晶Au-Al-Tb実験では、スピン波は観測されなかったが、同様な長距離磁気秩序を示すAu-Si-Tb, Au-Ga-Tbとは異なるエネルギーに結晶場励起を観測した。また、Al-Cu-Ru系準結晶のX線非弾性散乱の本実験では系統的な温度変化を測定し、3Rを超える余剰比熱が観測され始める温度(~600K)付近から特定の方向の音響フォノンの強度が減少することを見出した。構造可視化において、共通の高次元構造から、準結晶構造と近似結晶の両方を導出できるようになったことで、両者を共通の尺度で視覚的に比較検討する基盤ができた。以上のように、静的構造、動的構造、構造可視化の観点から、おおむね当初の目的通り研究が進捗していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
ハイパーマテリアルの典型である準結晶・近似結晶の構造解析を更に進める。dualized Ammann-Kramer-Neriタイリングの大域的性質を詳細に調べ、得らえた知見を正20面体ハイパーマテリアルの数理構造研究の更なる進展、特にAmmann-Kramer-Neriタイリングに関する未解明の問題(自己相似性や被覆クラスタ等)の解明に寄与する。擬メロヘドラル双晶の発現が観察されているアルミ基合金系近似結晶について、双晶を仮定した構造解析を進める。Al-Cu-Ru系近似結晶および準結晶に対して作製条件を最適化したアトマイズ試料を作製し、高温ダイナミクス解析を更に推進する。放射光コヒーレントX線回折を用いて、ハイパーマテリアルのメゾスケール構造のイメージング、および、そのダイナミクスの観察を進める。特に、他の計測によって高温で異常が見られつつあるAl-Cu-Ru系の準結晶と近似結晶に着目して、高温での構造揺らぎの観察を目指す。中性子散乱では余剰比熱が観測され始める温度より高温側でAl-Pd-Mn準結晶におけるAlの拡散、より低いエネルギー領域でのAu-Al-Tb近似結晶のスピン波探索、結晶場励起の磁気異方性の系統的測定、長距離磁気秩序を示す準結晶のスピン揺らぎ測定を行う。準結晶および近似結晶の統合的な構造可視化や比較のためのプログラム開発を引き続き行う。次年度は特に補空間の可視化、および使い勝手の改善に注力する。
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