研究領域 | ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
19H05821
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
出口 和彦 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (40397584)
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研究分担者 |
枝川 圭一 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20223654)
古賀 昌久 東京工業大学, 理学院, 准教授 (90335373)
高際 良樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 独立研究者 (90549594)
杉本 貴則 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 講師 (70735662)
中村 真 中央大学, 理工学部, 教授 (00360610)
橋爪 洋一郎 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 講師 (50711610)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | ハイパーマテリアル / 準結晶 / 近似結晶 / 高次元 / 補空間 / 磁性 / 超伝導 / フェイゾン |
研究実績の概要 |
磁性:Ybを含むTsai型のクラスター構造をもつ新しい強相関電子系の準結晶・近似結晶の磁性について、Yb以外の元素置換によりYbの磁性を制御することが可能になった。さらに、高次元の格子定数を用いて、Tsai型クラスター構造をもつYb系準結晶・近似結晶の磁性が整理できることが明らかになり、補空間を用いた高次元の物理と準結晶・近似結晶の物性をつなぐ端緒となると考えられる。理論面からは準結晶特有の量子臨界性を理論的に解明するために、フラクタル性や準周期性に特化した1次元のトイモデルを構築し、その相転移の機構や臨界状態の安定性の研究を進めた。準周期系特有の磁気秩序について、ペンローズタイル以外にAmmann-BeemkerタイルとSocolarタイルを調べ、弱結合極限における準周期系特有の束縛状態の影響を補空間マッピングにより可視化した。Tsai型準結晶及び近似結晶で、実験的に観測されている多彩な磁気秩序の発現機構を理解するために、まずRKKY相互作用のみを仮定した古典磁気模型の理論解析を行い、1/1近似結晶について実験結果の定性的な説明を得ることができた。 格子物性:Al-Pd-Mn系正20面体準結晶、Al-Pd-Mn-Si系2/1及び1/1近似結晶、Al-Pd-Fe系1/0近似結晶、Al-Pd-Ru系1/0近似結晶について高温比熱を測定した結果、準結晶は高温域でDulong-Petitの値から大きくはずれ、2/1、1/1、1/0近似結晶の順でDulong-Petitの値からのずれは小さくなる結果が得られた。これらの結果は準結晶の高温域における比熱上昇が構造秩序の高次元性に起因したフェイゾン弾性に関連して生ずる可能性を示唆するものである。理論面からも準結晶中の音響フォノンに加えて拡散モードとしてのphason(gaplessモード)の研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
準結晶や近似結晶など、補空間を含む高次元空間で統一的に記述されるハイパーマテリアルは、その高次元性に起因して「補空間」という 実空間と直交する隠れた空間の構造自由度を有する特徴がある。Tsai型のクラスター構造をもつ強相関電子系の準結晶・近似結晶の磁性について、高次元の格子定数を用いて、Yb系準結晶・近似結晶の磁性が整理できることが明らかになり、補空間を用いた高次元の物理と準結晶・近似結晶の物性をつなぐ端緒が得られた。理論面からは準周期系の磁気秩序について、ペンローズタイル、Ammann-Beemkerタイル、Socolarタイルを調べ、高次元性に着目した補空間マッピングによる準周期系の磁気秩序の可視化に成功した。Tsai型準結晶及び近似結晶で、実験的に観測されている磁気秩序と理論研究をつなぐためのRKKY相互作用のみを仮定した古典磁気模型の理論解析を行い、1/1近似結晶について実験結果の定性的な説明を得ることができた。ハイパーマテリアルの補空間自由度を最も単純な形で反映した物性であると考えられている準結晶の高温比熱におけるDulong-Petit則の破れについて様々な準結晶・近似結晶について高温比熱を測定した結果、準結晶は高温域でDulong-Petitの値から大きくはずれ、2/1、1/1、1/0近似結晶の順でDulong-Petitの値からのずれは小さくなる結果が得られた。超伝導については新しい超伝導ハイパーマテリアルが見つかりつつあり、Au-Ge-Yb近似結晶の超伝導が準結晶の超伝導の発見につながったことにより、日本物理学会第26回論文賞受賞となった。熱電応用についても機械学習を組み合わせた物質開発が成功し様々なメディアで取り上げられており、ハイパーマテリアルにも波及しつつある。以上のことからコロナ禍の影響は受けているが、研究計画は進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ハイパーマテリアルに特徴的な磁性・超伝導・量子臨界状態、熱電物性、格子物性、輸送現象を中心に据え、補空間に潜む法則性(hidden order)と補空間ダイナミクス・低エネルギー励起について下記のように役割分担して、理論・実験の双方から研究を行う。 ①磁性(出口、古賀、杉本、橋爪):A01班と連携して、新しい超伝導ハイパーマテリアルの探索を進める。磁性ハイパーマテリアルに狙いを定め、物質開発と極低温におけるバルク物性測定を進め、磁性と電子状態について調べる。準結晶及びその近似結晶における磁気秩序に対して、有効模型の決定を押し進め、未知の物性発現と実験に対する理論的提案を行う。A02班と協力して、準結晶特有の自己相似が関係する物性について、補空間解析法も組み合わせて解析を進める。 ②格子物性(枝川、橋爪、中村):ハイパーマテリアルの補空間自由度を最も単純な形で反映した物性であると考えられている準結晶の高温比熱におけるデュロン・プティ則の破れについて高温におけるバルク物性測定を進める。また、ハイパーマテリアルの成長過程の分子動力学シミュレーションも進める予定である。ハイパーマテリアルのフラクタル構造と物性の関係、フェイゾンについて拡散モードが存在する場合の臨界現象の理論研究を進める。 ③輸送現象(高際、中村):フェルミ準位近傍に擬ギャップ、または狭ギャップを形成する準結晶や関連の近似結晶および新規金属間化合物に着目し、高温における熱電能を調べることにより高い熱電変換性能を示す高機能ハイパーマテリアルを探索する。また、A03班と協力して、機械学習(ベイズ最適化)を用いた出力特性の向上を目指す。ゲージ・重力対応を準周期的ポテンシャル中の電荷輸送の解析に応用し、ハイパーマテリアルにおける電荷輸送と非平衡現象について高次元の観点から理論解析を進める。
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