研究領域 | 量子液晶の物性科学 |
研究課題/領域番号 |
19H05823
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大串 研也 東北大学, 理学研究科, 教授 (30455331)
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研究分担者 |
島川 祐一 京都大学, 化学研究所, 教授 (20372550)
永崎 洋 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 首席研究員 (20242018)
木村 剛 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (80323525)
工藤 一貴 大阪大学, 理学研究科, 教授 (40361175)
岡本 佳比古 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90435636)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 量子液晶 / 超伝導 / 磁性 / 遷移金属化合物 / 新物質開発 |
研究実績の概要 |
梯子型鉄系化合物BaFe(S1-xSex)3を対象に圧力下電気抵抗率の測定を行い、温度-圧力平面における電子相図を解明した。この物質では、0< x < 0.23ではストライプ型磁気秩/強的軌道秩序が、0.23 < x < 1.00ではブロック型磁気秩序/プロペラ型軌道秩序が安定である。数GPa程度の圧力を印加すると、0< x < 0.23のストライプ型磁気秩序/強的軌道秩序は安定化する一方、0.23 < x < 1.00のブロック型磁気秩序/プロペラ型軌道秩序は不安定化し、ストライプ型磁気秩序/強的軌道秩序にスイッチすることを見出した。さらに10 GPa程度の圧力を印加すると、ストライプ型磁気秩序/強的軌道秩序は抑制され、金属絶縁体転移近傍で関z年に消失することを見出した。この結果により、ストライプ型スピン揺らぎおよびフェロ型軌道揺らぎが、超伝導発現に関わっていることが結論された。0.23 < x < 1.00の圧力下で観測される超伝導はバルクでないことを見出し、これは軌道選択型モット転移系で特徴であることが明らかになった。
上記に加えて、様々な量子液晶物質の開発に取り組んだ。具体的な実績として、三角形ネットワークとカゴメネットワークを持つ新超伝導体Mg2Ir3SiおよびMg2Ir2.3Ge1.7の開発、ブリージングパイロクロアLiInCr4S8および三角格子AgCrS2における幾何学的フラストレーションに起因する大きな磁場誘起歪の発見、磁気四極子秩序を示す反強磁性体Pb(TiO)Cu4(PO4)4における可視光領域における非相反線二色性の解明、NiTiO3における原子配置の回転歪みで特徴づけられる秩序「フェロアキシャル秩序」の観測、アンチペロブスカイト型リン化合物超伝導体SrPd3P の発見、軽元素であるBとCを含む超伝導体Sc20C8-xBxC20の発見が挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画の二年目に当たる令和二年度は、前年度に引き続き研究環境の整備を進めた。名古屋大学に導入した水熱合成装置・超高温用電気炉は、想定していた圧力・温度に到達できることを確認した。これらの装置を用いた幾何学的フラストレート系の遷移金属酸化物の単結晶試料の合成が、順調に進んでいる。東北大学においては、ピストンシリンダー型・ダイヤモンドアンビル型高圧発生装置を、前年度に導入した強磁場基礎物性測定装置に組み込むことで、10万気圧級の圧力下の電気抵抗測定を実施する体制が整った。このように、研究環境の整備が滞りなく進んだ。
新物質開発研究も順調に進んでいる。令和二年度は、スピン液晶に関わる重要な成果が挙がった。具体的には、磁気四極子秩序を示す反強磁性体Pb(TiO)Cu4(PO4)4を対象に、可視光領域における非相反線二色性の発現・磁気四極子の符号反転に伴う線二色性の符号反転・これらの現象を利用した磁気四極子ドメイン構造の可視化に成功した。この成果に関してプレスリリースを行った。また、数々の新超伝導体に成功した。これらは、三角格子・カゴメ格子などのユニークな結晶構造を有する物質、あるいは軽元素(BやC)や重元素(Ir)などの化学的な特徴を有する物質であり、今度のさらなる展開が期待できる。
令和二年度は、感染症の影響で学会がオンラインでの開催となったため、研究遂行のための情報収集が不十分となった。そのため、予算の一部を次年度に繰り越した。令和三年度になり、研究打ち合わせの機会が設けられるようになり、所定の計画が進められる見込みとなった。また、対面でのコミュニケーションの不足を解消するために、2020年10月に「量子物質開発フォーラム」をオンラインで開催した。常時80名以上の学生・研究者が参加する意義深いワークショップとなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和三年度は、前年度に引き続き、(a) 化学的要因に着目した量子液晶物質の探索、(b) 結晶構造に着目した量子液晶物質の探索、(c) 磁気構造に着目した量子液晶物質の探索、(d) バンド構造に着目した量子液晶物質の探索、(e) 理論指針に基づき物質開発、(f) 外場による量子液晶の制御を実施する。対象とする物質群は、幾何学的フラストレーションを内包する量子スピン系・強相関効果の卓越した遷移金属酸化物・鉄系高温超伝導体・銅酸化物超伝導体・異常高原子価を有する物質・スピン軌道相互作用の卓越した5d遷移金属化合物・軌道縮退を有する不定比性化合物などである。到達目標は、新奇スピンネマティック秩序・電荷不均化状態・特異な対称性の破れを付随する軌道秩序・方向二色性などのマルチフェロイクス現象・非従来型超伝導・高温超伝導・トポロジカル量子輸送現象などの新奇な量子液晶現象が発現する物質を開発することである。
令和三年度は、前年度まで得られた成果を礎に、本新学術領域の他班との共同研究を活性化する。一例を挙げると、研究代表者のグループで開発した新しいキタエフスピン液体候補物質を、精密計測を専門とするB01班の研究グループに提供し、中性子散乱・核磁気共鳴により磁気特性を評価する。これらの実験結果を基に、理論を専門とするC01班の研究グループと共に議論することでハミルトニアンのパラメータを決定し、どのようなスピン液晶が実現しているか解釈を導く。また、領域外の研究グループとの共同研究も推進する。例えば、キタエフスピン液体候補物質の強磁場磁化測定を実施することを計画している。
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