計画研究
電荷液晶に関して、前年度に成功したTe置換FeSe単結晶を用いた詳細な物性研究を開始した。輸送現象、ネマティック感受率、分光イメージング等の多角的な手法を総合的に適用し、超伝導とネマティシティの関係に加えて、バンドトポロジーの変化にも注目した実験を行った。特に、準粒子干渉効果の結果から、ネマティシティの消失と、バンド分散の変化が対応していることを見出した。スピン液晶に関して、キタエフスピン液体候補物質RuCl3に関して、各グループが有する手法を総合的に適用した研究を行った。比熱・NMRの磁場・角度依存性から、スピン液体相におけるマヨラナ準粒子励起を示唆する結果を得た。また、高磁場領域で回転対称性の低下を伴う新たな量子液晶状態を見出した。関連物質の探索もA01班と共同で進めた。特にRuX3 (X = Br, I およびその混晶系)の結晶構造、磁気構造、電子物性を調べた。RuI3に関してはNQRの実験から磁気的なゆらぎの強い金属状態にあることを見出した。また、スキルミオン系でも、中性子小角散乱実験からその変調構造に関して新たな知見が得られた。電子対液晶に関しては、超伝導状態における非自明な対称性の破れが期待される系として、正方晶Fe(Se,S)単結晶の純良化を図ると共に、人工薄膜での超伝導状態をSTMで研究するための環境整備を開始した。手法開発に関しては、時間分解磁気光学顕微鏡により強磁性体薄膜のスピンダイナミクスの観測を行い、酸化物薄膜における1ピコ秒より早い超高速消磁観測に成功した。また、実験室に高次高調波発生のビームラインの建設に着手した。また、THz-STMの開発において、実際のシステムにTHz光の導入に成功し、トンネル電流信号観測を行うことができた。
2: おおむね順調に進展している
電荷液晶の研究は、FeSeとその置換系を主な対象に順調に推移している。特に笠原グループ・芝内グループで作製された良質な単結晶試料を様々な実験手法で共有することで包括的な実験と解釈が可能になっている。銅酸化物高温超伝導体・鉄系超伝導体以外に電荷液晶現象を示す系の探索と解明が、今後の課題として残されている。スピン液晶の研究では、キタエフスピン液体候補物質RuCl3におけるマヨラナ準粒子状態の研究で大きな進展があった。これまで、マヨラナ準粒子状態は熱ホール伝導度測定による半整数量子化の観測により示唆されたが、その後、熱伝導度の試料依存性により様々な解釈がなされるようになった。比熱の角度依存性は、マヨラナ粒子の存在の更なる証拠となることに加え、高磁場での新たなスピン液晶状態の存在の示唆にもつながった。また、新たなスピン液晶の舞台として、キタエフ系以外にもJ1-J2 スピン系モデル物質のバナジウム化合物の実験が進行している。本年度は電子対液晶に関する直接の大きな知見は得られなかったが、新しい電子対液晶探索の舞台の準備は整ってきている。手法の進展もおおむね順調であるが、導入予定であった極低温NMR用小型希釈冷凍機の導入が、世界的な半導体不足等の影響により翌年度に延期となってしまった。この他は、大型施設を使用せずに実験室での超高速応答測定技術が順調に整備できている。超高速消磁を観測できたことは大きな進展である。また、実験室における高次高調波発生のビームラインの建設も進展している。THz-STMに関しては、トンネル電流の検出という開発の初段階をクリアしたので、今後の極低温・高磁場での動作に対する見通しが得られた。
電荷液晶の研究は、FeSeとそのS置換系、Te置換系の研究を深化させる。とくに、Te置換系におけるネマティシティと超伝導の関係、ネマティック臨界点近傍における超伝導ギャップの詳細に関して、ネマティック感受率や分光イメージングSTMによる研究から明らかにする。また、電荷液晶現象を示す系の探索と電子状態の解明を行い、ネマティック・スメクティック状態と電子相関・超伝導の関係を明らかにする。スピン液晶に関しては、引き続きキタエフ量子スピン系RuCl3とその関連物質の研究を継続する。特に、強磁場下でのNMR測定からマヨラナ準粒子に関連する磁気励起とマグノン励起の分離を試みる他、関連物質の中性子非弾性散乱を行い、有効スピンハミルトニアンのパラメータ決定を行う。電子対液晶については、大きな残留状態密度を有する特異な超伝導状態が実現される非ネマティック相のFe(Se,S)における超伝導ゆらぎの効果を精査するために、高精度比熱測定を行う。また、電荷液晶・スピン液晶に比べて、その候補物質の少ない電子対液晶の舞台探索のためにMBEで人工超薄膜を作製し、の分光イメージングSTM測定を行う。手法開発に関しては、角度分解比熱測定、NMR測定に希釈冷凍機を導入し、測定温度領域を100 mK以下まで拡張する。また、交流法を用いた圧力下の比熱測定や、ベクトル磁場下での分光イメージング測定など、新しい測定パラメータの導入を試みる。この他、超高速X線分光のために開発を進めている実験室系の高次高調波発生のビームラインを完成させ、大型施設であるX線自由電子レーザーを用いないで軟X線パルス光を得ることを目指す。さらに、THz-STMの低温動作を試み、THzパルスの集光や波形・偏光の制御性、トンネル電流のノイズフロアの評価を行う。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (30件) (うち国際共著 15件、 査読あり 26件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (26件) (うち国際学会 13件、 招待講演 26件)
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