研究領域 | 量子液晶の物性科学 |
研究課題/領域番号 |
19H05824
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
花栗 哲郎 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (40251326)
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研究分担者 |
佐藤 卓 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70354214)
笠原 成 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (10425556)
芝内 孝禎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (00251356)
清水 康弘 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (00415184)
廣理 英基 京都大学, 化学研究所, 准教授 (00512469)
和達 大樹 兵庫県立大学, 理学研究科, 教授 (00579972)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 量子液晶 / ネマティシティ / 超伝導 / 量子スピン系 / 走査型トンネル顕微鏡 / 核磁気共鳴 / 中性子散乱 / X線分光 |
研究実績の概要 |
電荷液晶に関して、ネマティシティと超伝導が共存するFe(Se,Te)の研究を進め、ネマティック感受率測定より量子液晶の量子臨界点の存在を明らかにした他、高磁場下での超伝導特性の解析から、量子臨界点近傍で超伝導対の強度が強まっていることを明らかにし、新しい超伝導機構「量子液晶ゆらぎによる対形成」を支持する実験結果を得た。また、超伝導ギャップのTe濃度依存性の測定から、ネマティック相内部で超伝導の性質が変化していることを見出した。また、ノーダルライン半金属BaNiS2において、有限エネルギーに現れる特異なネマティシティを見出した。 スピン液晶に関して、キタエフ量子スピン物質RuCl3の高磁場下でのNMR測定を実施し、マヨラナフェルミオンに特徴的な異方的な磁気励起とマグノン励起を分離して観測することに成功した。また、類縁物質RuBr3の中性子非弾性散乱実験結果のスピン波解析からスピンハミルトニアンパラメータをおおよそ決めることに成功した。 電子対液晶に関しては、面内磁場中で量子揺らぎにより渦糸格子が融解することが示唆されるFe(Se,S)の非ネマティック相の超伝導揺らぎを定量的に評価するための高精度比熱測定を行った。また、NbSe2単層膜超伝導体において、基板とのモアレ超格子に起因すると考えられる、特異な準粒子干渉パターンを見出した。 手法開発では、新しい時間分解手法の開発を継続している。超短パルスレーザー照射による磁化反転の観測を試み、酸化物薄膜における初めてレーザー励起磁化反転を観測した他、レーザー照射後の電荷のダイナミクスをフェムト秒の時間スケールで測定に成功した。また、低温強磁場中でのTHz-STMの開発においては、THz誘起トンネル電流観測に成功し、相関測定から、時間幅0.65 psの時間分解計測が可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電荷液晶の研究は順調に推移している。Fe(Se,Te)の純良単結晶試料を試料を用いた一連の実験から、同じ等価元素置換系であるFe(Se,S)とは異なる超伝導とネマティシティの様々な興味深い関係が見出されており、Fe(Se,Te)、Fe(Se,S)における超伝導・ネマティシティ・量子液晶ゆらぎ・バンドトポロジーの複雑な相関関係の全容が明らかになりつつある。 スピン液晶に関しては、キタエフスピン液体候補物質を中心に理解が深まっている。中性子非弾性散乱実験を用いたスピンハミルトニアンパラメータの見積もりは、RuBr3以外にバナジウム硫酸塩でも成功しており、量子スピン液晶候補物質の微視的な理解に貢献している。また、NMRを用いた研究は、パンデミックによる機器の納品の遅れに影響されたものの、極低温・一軸歪などの特異な環境での実験が可能になりつつある。 電子対液晶に関しては、これまでにFeSeで行ってきたFFLO状態の研究から、新奇な超伝導・電子対液晶状態の探索へと研究を展開している。特に、ボゴリューボフフェルミ面の出現が強く示唆されるFe(Se,S)の非ネマティック相における超伝導状態の解明に向けて、面内磁場下での比熱測定や超低温での分光イメージング測定の環境整備を進めている。 手法開発では、超短パルスの赤外線レーザーを導入した実験室において、酸化物薄膜における初めてレーザー励起磁化反転を観測したことが大きな進展である。また、実験室に高次高調波発生のビームラインの建設を終え、恒常的に軟X線を用いた電荷とスピンダイナミクスを時空間分解できるようになった。また、THzパルスビームを細いパイプに通さなければならない低温強磁場THz-STMの開発において、テラヘルツ誘起トンネル電流の検出と、サブpsの相関時間幅の実証に成功したことは大きな進歩である。
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今後の研究の推進方策 |
電荷液晶に関しては、電荷ネマティック相と超伝導が複雑に相関するFe(Se,Te)、Fe(Se,S)の電子状態の総合的理解を目指す。これまで、電子相図の詳細がほぼ明らかになっているので、各相の特徴を解明する。特に、Fe(Se,Te)のネマティック相内部での複数の超伝導状態解明や、Fe(Se,S)の非ネマティック相でのボゴリューボフフェルミ面の検証を目指す。このために、極低温や圧力下における比熱測定といった熱力学手法から、超低温走査型トンネル顕微鏡のような分光測定まで、これまでに開発してきた様々な実験手法を包括的に適用する。また、新しい電荷液晶状態の探索を継続する。 スピン液晶に関しては、極低温・一軸歪環境でのNMR測定システムを完成させ、キタエフ量子スピン系をはじめとする様々な量子スピン液晶候補物質に適用し、低エネルギー磁気励起を解明する。また、中性子非弾性散乱実験を用いて見積もったスピンハミルトニアンパラメータからスピンネマティック相の可能性を追求する。この他、A01班と協力して、新しく開拓されるスピン液晶・スキルミオン候補物質のNMR・中性子散乱による評価を行う。 電子対液晶に関しては、FFLO状態以外の非自明な空間変調する超伝導状態の探索を行う。超伝導単層膜と基板が形成するモアレ超格子が超伝導に非自明な影響を与えることが明らかになりつつあるので、超低温分光イメージング測定によって、その詳細を明らかにしたい。 手法開発において、軟X線パルス光を利用した時間空間元素分解した電荷とスピンダイナミクス測定がX線自由電子レーザーのみでなく実験室でも可能になりつつある。圧力や温度などのパラメーターも加え、量子液晶のダイナミクスの本質を明らかにする研究を進めたい。THz-STMに関しては、これまでの知見を集結し、超高真空・低温・高磁場の極限環境下で動作する時間分解THz-STMを実現する。
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