受精前後における遺伝子発現リプログラミング機構の解明のために、クロマチン構造の変化に大きな役割を果たすことが知られているヒストン変異体の置換を受精前後の卵と胚で調べた。本年度は、クロマチンを形成する4つのコアヒストンのうち最も変異体の種類が多いhistone H2Aに焦点を当てて解析を行った。 その結果、受精直後に核内からH2A.ZとmacroH2Aが急激に消失することが明らかとなった。また、H2Aも核内から次第に失われていったが、前述の2つの変異体とは異なり、完全に消失することはなかった。一方、H2A.Xだけは、受精後逆にその核内への局在を増加させていった。これらの変異体の発現量は受精前後で変化していなかったことから、核局在量の変化はクロマチンへの取り込み量に変化が起こったものと考えられた。実際に、flagタグを付加した各変異体をコードするmRNAを顕微注入して、そのタンパク質の核内への取り込みを調べたところ、受精後にはH2A.Xのみが活発に取り込まれていた。このような受精直後におけるH2A.Xの活発な取り込みは、そのC末端のアミノ酸配列が重要であることが明らかとなった。すなわち、H2A.XのC末端アミノ酸をH2A.ZあるいはmacroH2Aに付加したところ、これらの変異体も受精後に核内に取り込まれるようになった。興味深いことに、これらの変異体をを核内に胚は2細胞期への分裂が遅れ、さらには胚盤胞への発生率が有意に低下していた。したがって、受精直後にH2A.ZとmacroH2Aが核クロマチンから消失することが初期発生に必要な現象であることが明らかとなった。
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