研究領域 | 生殖系列の世代サイクルとエピゲノムネットワーク |
研究課題/領域番号 |
20062002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
青木 不学 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 教授 (20175160)
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キーワード | ヒストン変異体 / リプログラミング / クロマチン / 卵 / 初期胚 |
研究概要 |
受精前後における遺伝子発現リプログラミング機構の解明のために、クロマチン構造の変化に大きな役割を果たすことが知られているヒストン変異体の動態を受精前後の卵と胚で調べた。本年度は、ヘテログロマチン形成に関与し哺乳類特異的であるヒストンH3.1に焦点を当てて解析を行った。ヒストンH3変異体は互いにアミノ酸配列が非常に類似しており、それらを有効に識別できる抗体が存在しないため、Flagタグを付加したヒストンH3.1のトランスジェニックマウスを作成し、これを用いてH3.1の動態を解析することにした.まず、調べたすべての体組織でFlag-H3.1が恒常的に発現しているトランスジェニックマウスの作出が確認できた。このマウスから得られた卵および初期胚におけるFlag-H3.1の動態を調べたところ、成長卵および受精後の4細胞期まで核内にFlag-H3.1が検出されず、桑実胚期で初めてこれが検出された。一方で成長卵あるいは1細胞期胚でFlag-H3.1のmRNA発現が確認できたことから、H3.1をクロマチンに組み込むシャペロンが成長卵および初期胚で機能していないことが示唆された。さらに卵成長期を遡って、生後9日目のマウスから得られた成長期卵を調べたところ、この時期にもFlag-H3.1は核内に検出されなかった。したがって、卵形成のより早い時期にH3.1がクロマチンから消失していることが示された。また、ヒストンH3変異体の発現をRTP-PCRで解析した結果、卵および受精後の初期胚においてH3.1の発現量は低く、桑実胚期から増加することが明らかとなった。一方、H3.2およびH3.3は卵においても発現量が高かった。これらの結果は、卵および初期胚でH3.1がクロマチンに存在しないのは、シャペロンの機能不全だけでなく、H3.1自身の発現量が低いこともその1つの原因になっていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分化に関わるヘテロクロマチン形成を調節するヒストンH3.1のトランスジェニックマウスの作成に成功し、受精前後でのH3.1の動態を解析できたことで、遺伝子発現リプログラミングへのヒストン変異体置換の役割についての重要な知見を加えることができたことから、順調に研究が進展しているものと考えられる。さらに、受精前の卵においてもH3.1がクロマチンに存在しないという予想外の知見が得られ、今後の研究が楽しみな状況であるが、これがリプログラミングあるいは卵形成にどの様な役割を果たしているのかは全く未知の段階であり、研究が当初の計画以上に明らかに進展しているとは評価し難い。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに受精前後におけるヒストン変異体の動態を調べるとともに、その調節機構についての研究を行う予定である。さらに、H3.1が成長期卵でもクロマチンに存在していないことを示唆する結果が得られたことから、さらに卵形成を遡って始原生殖細胞におけるゲノムリプログラミングへのH3.1の関与についても解析を行う予定である。
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