受精前後において遺伝子発現のリプログラミングが起こると考えられているが、その実態はほとんど明らかにされていない。その大きな原因の1つとして、リプログラミングが起こる前後の遺伝子発現状態が明らかにされていないことがある。これまでに受精前の卵で発現する遺伝子については数多くの報告があるが、受精直後の胚から転写される遺伝子についての報告はほとんど見られない。その原因として、受精前に卵に蓄積された大量の母性mRNAに対して受精後に生成される胚由来のmRNA量が非常に少なく、これらを同定することが極めて困難であることがあげられる。そこで、これまでの研究で用いられてきたマイクロアレイよりもさらに感度の高いRNAシーケンスを用いて、受精直後の遺伝子発現パターンを解析することを試みた。その結果、受精前には発現せず、受精後に発現する23個の遺伝子を発見した。そして興味深いことに、これらの転写産物はスプライシングがなされておらず、イントロンを含んだままであることが明らかとなった。実際に、イントロンを含むcRNAを1細胞期胚に顕微注入したところ、イントロンはスプライシングされなかったが、受精前の成長期卵および2細胞期胚に顕微注入したものでは、イントロンがスプライシングされて取り除かれていた。したがって、1細胞期胚はスプライシング機構が機能していないことが分かった。そして、この1細胞期の性質、すわなちその転写産物がイントロンを含むという性質を利用することで、1細胞期で転写される遺伝子を新たに約4000個同定することができた。このように多数の遺伝子を同定できたことで、その転写制御領域の解析が可能と考えられ、現在、1細胞期胚での転写制御についての解析を進めているところである。
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