我々は、ES細胞とTS細胞でメチル化状態に顕著な差がある領域(T-DMR)をおよそ20カ所同定している。これらのDNAメチル化の違いが、それぞれの幹細胞が由来する内部細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)においても見られるのかどうかを検討することがひとつの目的である。トリプシン/パンクレアチン溶液を用いることで、胚盤胞の解離条件を設定することに成功し、ICMとTEを単離する手法を確立した。100-200個の細胞を用いたDNAメチル化解析法の検討が進行中である。また、ゲノムワイドなDNAメチル化解析のために、メチル化感受性制限酵素処理による切断断片のPCRによる増幅と、DNAタイリングアレイとを組み合わせた新たな手法(D-REAM法)も確立した。げっ歯類が持つプロラクチンファミリー遺伝子の多くは胎盤で発現し、妊娠の維持などに関わるが、D-REAM法により、その全ての遺伝子が胎盤で低メチル化となるT-DMRを有することが明らかになった。さらに、分化前後のTS細胞の比較では細胞周期のM期進行に関わる遺伝子に多くT-DMRが見つかり、これらの遺伝子のDNAメチル化による制御機構の存在が示唆された。以上に加え、ES/TS細胞でともに未分化時に強く発現するLin28に注目し、そのES細胞における機能解析を行った。マウスはLin28SAとLin28Bの配列のよく似た遺伝子を持つ。shRNAを用いたノックダウン解析により、予想外に、Lin28A発現レベルの低下がOct4発現の上昇を誘起することがわかった。-方、Lin28Bの発現低下はOct4発現の低下をおこし、これらの因子がOct4の発現に対し逆の作用を持つことが明らかとなった。
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