これまでの研究により、栄養膜細胞系列・胚体細胞系列間でDNAメチル化状態の異なるゲノム領域(T-E T-DMR)を同定してきた。今年度はT-E T-DMRメチル化を担うDNAメチル基転移酵素(Dnmt)の同定を目指し、2つの実験を行った。(1)新規型DnmtであるDnmt3a、Dnmt3bそれぞれを欠損するマウス胚についてT-E T-DMRのメチル化解析を行い、いずれのDnmtもT-E T-DMRメチル化に寄与すること、そして、T-E T-DMRの中でも領域によってそれぞれのDnmtの寄与の程度が異なることを明らかにした。 (2)Dnmt活性を欠く栄養膜幹細胞(TKO TS細胞)で各Dnmtを強制発現させたところ、外因性のDhmtはTKO TS細胞のゲノムを「再メチル化」し、Dnmt3aとDnmt3bは異なる標的嗜好性を示した。注目すべきことに、再メチル化は野生型TS細胞でメチル化されるT-E T-DMR特異的に起きていた。このことは、TS細胞特異的なDNAメチル化に必要な何らかのエピジェネティックマークが、TS細胞のゲノム上に存在することを示唆した。そこで次に、その候補因子としてヒストン修飾に着目し、14種類のヒストン修飾についてTS細胞、ES細胞におけるT-E T-DMRの修飾状態を解析した。ここで明らかになったヒストン修飾状態とTKOTS細胞にDnmtを強制発現させた際に生じた再メチル化率との相関を調べたところ、H3K9me1、H3K9me2、H3K36me2、H3K36me3のTS細胞における修飾レベルと、Dnmt3aによる再メチル化率との間に正の相関が見出された。さらに、この相関はTKO TS細胞のヒストン修飾レベルでも保存されていた。この結果より、これらのヒストン修飾を手掛かりとしてTS細胞特異的なDNAメチル化プロフィールが確立されるというモデルが推測された。
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